林業と衛生管理者
林業は、自然が相手の仕事ですから、危険性・有害性の高い業種だと言えます。
衛生管理者を選任する際も、第二種衛生管理者免許の有資格者では選任する要件を満たしていません。
林業では、第一種衛生管理者や衛生工学衛生管理者などの有資格者が、衛生管理者として選任できます。
今回は林業の現場では、どのような有害因子があるのか、そしてその有害性による疾病を防ぐにはどうすればよいのかを見ていきましょう。
温熱環境による健康障害
高温による障害
夏季の森林伐採、又は草刈りなどの作業では、熱中症を起こすことがあります。山林は高温で湿度が高く、風通しが悪いので、特に熱中症が起こりやすい環境です。
ヒトは高温環境下では、汗をかいて体温を一定に保とうとします。しかし、その調節がうまくいかなくなると、体内の水分や塩分が不足して脱水や痙攣(けいれん)を起こすことがあります。
重度の熱中症では、ろれつが回らない、焦点が合わないなど意識障害が出る熱射病が起こります。熱射病になると、迅速に医療機関で処置を受けさせなければ死亡するおそれがあります。
実際に平成26年度には、林業作業中に熱中症で亡くなった人もいます。夏季の作業では、水分補給と塩分補給、作業密度の調整やこまめな休息を取り入れることが大切です。
低温による障害
冬季の山林は、標高が平地より高く、陽当たりがよくないので大変寒いでしょう。
そんな寒冷環境下では、凍瘡(とうそう・しもやけ)や凍傷に注意が必要です。特に、手や足の指先など末端部は、血管が収縮しやすく体温が低下しやすため、これらの障害が起こりやすいのです。
凍瘡は、血管の壁に小さな隙間ができてしまうことで起こり、患部が腫れて痛痒くなります。また凍傷は、0℃以下の環境で起こり、組織の細胞が凍結壊死してしまいます。重症の場合は、その組織を切断しなければなりません。
冬季の作業では、防寒具などをきちんと着用することが大切です。
振動による健康障害
局所振動障害
チェーンソーなどの振動工具を手に持ち作業すると、手指にレイノー現象などの末梢循環障害を引き起こすことがあります。
レイノー現象は、白指現象とも言い、指の色が白くなり、しびれ感、感覚の鈍化、ずきずきした痛みなどが発生します。その他にも、関節痛などの筋骨格系の振動障害を起こすこともあります。
機械的な細かな振動と寒冷のばく露が重なると、手指の血管が強く収縮し、局所振動障害を起こしやすいとされています。
振動工具を選ぶ際は、振動がなるべく少ないものを選択し、振動防止保護具を着用することが大切になります。
重量物取扱作業等に伴う筋骨格系の障害
林業の作業では、重いものを持って山間の斜面を上ったり下りたりします。その際、腰に大きな負担がかかり、腰痛を引き起こすことがあります。
腰痛は、被災時の災害性の有無により「災害性腰痛」と「非災害性腰痛」に分類されています。
災害性腰痛
災害性腰痛は、重量物運搬中に転倒や腰部への予想以上の過重な負荷で突然発症するものを言います。
たとえば、伐採に使う工具を持ち運ぶときに、転倒して腰を痛めた場合などが該当します。
非災害性腰痛
非災害性腰痛は、重量物を取り扱う業務など、腰部に過度の負担がかかる業務により発生するものを言います。
たとえば、木材の運搬で、腰の曲げ伸ばしを何度も繰り返し、腰を痛めた場合などが該当します。
腰痛を防ぐには、重すぎるものを1人で持たない、腰部に負担の少ない作業姿勢を取る、腰痛予防体操を取り入れるなどの対策が必要です。
林業では安全と衛生は必ずセットで
ここまで、林業作業において気を付けるべき疾病について見てきました。
ただし現場では、激突、墜落・転落、切れ・擦れなどの労働災害にも十分注意しなければなりません。
林業では自然が相手です。巨大で重たい木が相手です。傾斜が厳しく、狭い場所での高所作業もあります。
事故が起こる前に、しっかりとした安全施策を講じましょう。
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