建設業と衛生管理者
建設業は、労働による事故や健康障害が多く発生している業種のひとつです。
そもそも建設は、建物や橋などを建てる事、土木工事、海洋分野の工事、プラント工事など幅広い事業範囲を占めています。
季節によって環境が変わる屋外での作業はもちろんのこと、河川や海、マンホール内などの半密閉された空間での仕事を行うため事故が多いのも頷けます。
今回は建設業で、衛生管理上どのような事に気を付けなければならないのかについて見ていきましょう。
有害物質による健康障害
硫化水素中毒
建設業において、硫化水素による中毒がしばしば起こっています。
硫化水素とは、無色の気体で、卵の腐ったような臭いをしています。一定濃度以上の硫化水素を吸い込むことで中毒を起こします。
硫化水素中毒は、事故の件数に比べて、死亡者の割合が高いのが特徴です。頭痛、吐き気、意識混濁、呼吸困難などが生じ、ひどい場合は死に至ります。
硫化水素は下水、廃棄物処理場などで発生します。下水は汚水圧送管というパイプの中を通って、処理施設まで送られます。
このパイプの途中には、パイプに溜まる空気を抜くための空気弁という器具が設置されています。空気弁は、数か月で点検を実施しなければなりませんし、古くなったら交換が必要で、建設業者がこの作業を請け負います。
過去には空気弁の交換中に、パイプから漏れ出た硫化水素による中毒で、死亡事故が発生したことがあります。
建設業者のこのような事故を防ぐには、硫化水素の有害性やその対策に詳しい者に作業を指揮させ、保護具の使用状況などを適切に管理させることなどが挙げられます。
異常気圧による健康障害
減圧症
建設業では、橋梁などの建築物を建てる工事を請け負います。橋梁(きょうりょう)とは、河川などに架ける橋のことをいいます。
橋の足の部分に当たる橋脚工事での掘削作業では、減圧症に注意しなければなりません。橋脚工事では、硬い岩盤に足を埋め込むために、地面を掘り進んでいきます。
地面からは湧き水が出てきますから、ケーソン工法という方法で工事が行われます。ケーソン工法は、気密された作業室を地面下に作り、そこで掘削しながら地下深く掘り進む工法です。
通常大気圧は1気圧ですが、作業室ではそれよりも高い気圧にすることで湧き水が出ないようにします。高い気圧の中で作業する場合、気閘室(きこうしつ)で高気圧環境に体を慣らしてから作業室に入ります。
高い気圧の中では、身体に様々な影響を及ぼすおそれがあります。特に注意しなければならないのが、減圧後に起こる減圧症です。
減圧症は、ケーソン病、潜函病ともいわれ、潜水作業で起こるものは潜水病ともいいます。これは血管中に溶け込んでいた窒素が、気泡となって血管を閉塞することで起こります。減圧症では、皮膚のかゆみ、関節痛、呼吸困難、胸内苦悶、神経のマヒをきたします。
防止対策としては、作業後の減圧はゆっくり行うことが大切です。もし、減圧症になってしまった場合は、再圧室で再加圧を行い、徐々に圧を下げて治療します。
ちなみに、肥満症の者は減圧症が起こりやすいとされており、高圧下の作業には適さないとされています。また、高圧作業に慣れていない者、疲労が溜まっている者も減圧症になりやすいとされています。
建設業でのその他の健康障害
上記の他にも建設業では、気を付かなければならない健康障害がたくさんあります。
古い建築物には、断熱材などに石綿(アスベスト)が使われていることがあります。現在、石綿は原則その製造を禁止されていますが、非常に有害な鉱物線維です。
また、風通しの悪い場所での石油燃料による発動機の使用時には、一酸化炭素中毒に注意が必要です。作業場所の換気対策などを十分行わなければなりません。
他にも、夏季の暑熱環境における熱中症も侮れません。重量物の取扱いによる腰痛、過重労働における精神疾患など、建設業では作業特性ごとの対策を考える必要があります。
特殊な作業では、特別教育や免許制度が法で整備されています。しっかりと確認して安全第一での作業を心がけましょう。
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