清掃業と衛生管理者
清掃業といえば、ショッピングモールやホテルなどで機械を使って床を磨く作業、高層ビルのガラス窓をゴンドラに乗って拭く作業などが思い浮かびます。
清掃業の作業を一覧にすると次のようになります。
・住宅の清掃
・浄化槽、貯水槽の清掃
・空調設備、配管の清掃
・道路、公園などの清掃
・バキュームカー等でのし尿の汲み取り
・ごみ、燃えがら、汚泥、廃油、産業廃棄物等の収集と処分
清掃は、企業だけでなく、普段から私たちとも関わりが深い事柄です。自分たちで出来ることもありますが、安全に効率的に実施するためには、専門の清掃業者に依頼することが多くなります。
そんな清掃業ですが、法令において有害性の高い業種に分類されています。ですから、清掃業に従事する労働者の衛生管理は、しっかりと行わなければなりません。
今回は、清掃業で気を付けるべき衛生管理について見ていきましょう。
有害ガスによる健康障害
塩素ガス中毒
実際に起こった事故事例を紹介します。
あるホテルに依頼されて、複数の作業者でホテルの清掃作業を行っていました。作業者はトイレ清掃を行うために、洗剤が入っているバケツを持って作業に取り掛かろうとしました。
しかし、バケツ内の洗剤の量が少なかったため、近くにあった容器に入っていたワックス液をバケツに補充してしまいました。ワックス液は洗剤には使われませんので、この時点で作業工程が間違っている訳ですが、作業者自身は気が付きません。
それでも量が足りなかったため、さらに漂白などに用いられる次亜塩素酸ナトリウム水溶液をバケツに補充してしまいました。ワックス液には硫酸が含まれていました。
そこに塩素系の漂白剤を混ぜてしまったので、有毒な塩素ガスが発生し、作業者は塩素ガスを吸い込んでしまいました。この作業者は、病院に運ばれましたが、その後死亡が確認されたのです。
一般家庭でも、酸と塩素系の洗剤を混ぜることによる塩素ガスの発生事故が起っており、たまにニュースで見かけることがあります。
清掃業では、特にこのような塩素ガス発生による事故は多くみられます。その要因の一つに、清掃業の従事者はパート・アルバイトの人も多く、安全衛生教育が行き届いていない現状があるでしょう。
この事故を防ぐには、容器の保管場所を決めること、容器に内容物の有害性などを記載すること、作業者に塩素ガス発生の原理・発生時の対応などの教育を行うことが大切です。
作業環境による健康障害
酸素欠乏症
工場などで出たごみは、産業廃棄物といいます。産業廃棄物はその種類ごとに適切な処理を行い、最終処分処理施設で埋め立てられます。
このような産業廃棄物をそのまま地面に埋めただけでは、雨水などにより漏えいしたり、地下水の汚染につながるおそれがあります。処理施設では、こういった不具合を防止するため、遮水シートを敷いてその上に埋め立てるようにしています。
それでも降雨で汚水があふれ出る可能性がありますので、竪型集排水塔(産業廃棄物から出てくる水を集める縦長の塔)でその汚水を集めて汚水処理施設に送ります。
過去に、竪型集排水塔の点検に入った作業者が、酸素欠乏症により亡くなる事故が起こっています。このとき、内部には汚水が溜まっており、長期間密閉されていました。
したがって、内部の酸素濃度が極めて低く、酸素欠乏危険場所となっていたのです。
なお、酸素欠乏とは酸素濃度が18%未満の状態をいいます。16%以下になると、頭痛や吐き気などの自覚症状が現れます。さらに、10%以下で意識喪失や窒息、痙攣が起こり、6%以下では一呼吸で死亡することが多いとされています。
酸素欠乏状態かどうかは、肉眼では確認できないので、特に怖いですね。
この事故を防ぐには、酸欠作業主任者が立会うこと、作業開始前に酸素濃度を測定すること、呼吸用保護具を着用することが大切です。
清掃業でのその他の健康障害
清掃業では、貯水槽や汚水施設などに立ち入ることもありますので、硫化水素の中毒にも注意が必要でしょう。
また、ごみ焼却施設などでは、ダイオキシン類のばく露にも注意が必要です。ダイオキシン類は、ごみを燃やした後の焼却灰などに含まれており、発がん性などの有毒性がある物質です。
焼却灰が入っている焼却炉内の作業に入るには、エアラインマスクなどの呼吸用保護具を着用しなければなりません。
また、清掃業では屋外や初めての場所での作業が多々ありますから、安全面でも、転落、墜落、挟まれなどの事故に注意が必要でしょう。作業ごとのリスクをしっかりと見極めて、安全・安心な作業を心がけましょう。
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