旅館業と衛生管理者
Airbnb(エアビーアンドビー)という企業をご存知でしょうか?
アメリカに本社がある民泊サービスを提供する企業です。
具体的には、「宿泊したい人」と「自宅等に宿泊させたい人」を結びつけるサービスを提供しています。つまり、旅館やホテルではなく、一般人宅に宿泊できるサービスなのです。
もちろん、宿泊費が必要なのですが、旅館などに比べて安かったり、その持ち家の人と交流が出来たりというメリットがあり、外国人旅行客の利用者が多いようです。まだまだ日本人同士で頻繁に利用し合うようになるには、時間がかかりそうですね。
本来、人を宿泊させてお金を頂く場合、『旅館業法』に則って適切な申請等を行政に行う必要があります。ところが、近年行われた規制緩和によって、要件さえ満たせば一般人のお宅でもお金を頂いて宿泊させることができるようになりました。ただし、まだまだ問題があって、日本では法整備が追いついていないのが現状です。
さて、旅館業を営むには、安全及び衛生の水準の維持及び向上に努めなければなりません。今回は、旅館業における衛生管理について見ていきましょう。
旅館業とは
旅館業とは、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業のことを言います。
平成26年9月に厚生労働省がまとめた「旅館業の実態と経営改善の方策」によると、平成24年時点で日本の旅館業の施設は、約8万施設あることがわかっています。その内訳は次の通りです。
・旅館営業 44,744施設
・簡易宿所営業 25,071施設
・下宿営業 801施設
年々、旅館営業は減少傾向にありますが、カプセルホテル等の簡易宿所営業は増加傾向にあります。
旅館業では、たくさんの人が出入りするため、衛生管理を怠ると大きな事故に繋がることがあるので注意が必要です。
空気環境の衛生管理
ここからは、旅館業で過去に起こった衛生管理にまつわる事故事例を中心に見ていきたいと思います。
一酸化炭素中毒
ある旅館での出来事です。
5日間の休業後、出勤者が給湯器の漏水を発見しました。
床下ピット(くぼみ)には大量の水が溜まっており、エンジンポンプをピット内に設置して排水することにしました。エンジンポンプとは、ガソリンで稼働する水を汲み上げる機械のことです。
稼働して3時間経過後、エンジンポンプの位置を変更しようと作業者がピット内に入りました。少し作業をしたところで、作業者がピット内で意識を失い倒れました。
ピット内のような風通しが悪い場所でガソリンを燃焼させると、不完全燃焼が起こり一酸化炭素がたくさん発生します。一定量の一酸化炭素を吸入すると、一酸化炭素中毒を起こし、最悪の場合死に至ります。
この事故を防ぐためには、換気を十分に行うこと、一酸化炭素の発生とその有害危険性を教育することが必要です。
また、過去には一般の宿泊客を巻き込んだ一酸化炭素中毒事故も起こっています。
この事故で修学旅行に来ていた小学生の随行カメラマン1名が亡くなり、22名が病院に搬送されました。
事故の原因は、給湯用ボイラーが不完全燃焼を起こしていたこと、そして煙突(排気筒)の出口が金属製のフタで塞がれていたことです。
逃げ場を失った一酸化炭素は、施設の隙間から隣接する客室や廊下に漏れ出したのです。一酸化炭素は無臭、無色で刺激性が無く、吸入しても気がつかないことが多く、被害が拡大しやすいのです。
この事故を防ぐためには、日ごろから給気、排気の設備を点検し、一酸化炭素警報装置の設置などが有効な対策となります。
塩素ガス中毒
あるホテルの大浴場の機械室で起こった事故です。
菌による感染症を防ぐため、浴場のお湯は塩素消毒が行われています。
塩素注入器に消毒用の薬剤A(次亜塩素酸ナトリウムを含有)の補充作業を行っていたときに、誤って塩酸及び有機酸を成分とする薬剤Bを入れたところ、塩素ガスが発生しました。
作業者1名が発生した塩素ガスを吸い込み、気管支炎と診断されました。
このように消毒などに使う次亜塩素酸塩溶液と、酸性溶液の薬品が混触すると、人体に有害な塩素ガスが発生しとても危険です。
この事故を防ぐためには、それぞれの薬剤の容器・保管場所を明確にすること、塩素ガスの発生原理と危険性を作業者に教育する必要があります。
その他の旅館業での衛生管理
食事を提供する場合、食中毒に注意が必要です。
旅館業においては、宿泊者が同じものを食べますので集団食中毒になることがあります。
夏場であればサルモネラ菌、冬場であればノロウイルスなどがよく起こっています。
⇒【関連記事】衛生管理者が知らないでは済まされない感染症のこと
また、山菜などを料理に出す場合は、毒キノコなどの自然毒にも注意が必要ですね。
ワラビはあく抜きしなければ毒性があります。ニラとよく似たスイセンの葉も毒性があり食べることはできません。
規制緩和によって旅館業というものが身近になりつつあります。営業する側の衛生管理について、興味を持つ良い機会ではないでしょうか。
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