衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2017年10月)
ここでは、2017年(平成29年)10月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、特例第1種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第2種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2017年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2017年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2017年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2017年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2017年10月)
問11 次の化学物質が、常温・常圧(25 ℃、1気圧)の空気中に発散した場合に、蒸気として存在するものはどれか。
ただし、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)オルト-トリジン
(2)アンモニア
(3)二酸化硫黄
(4)アセトン
(5)ジクロロベンジジン
(1)オルト-トリジンは、粉じんとして存在します。
(2)アンモニアは、ガスとして存在します。
(3)二酸化硫黄は、ガスとして存在します。
(4)アセトンは、蒸気として存在します。
(5)ジクロロベンジジンは、粉じんとして存在します。
問12 化学物質等による疾病のリスクの低減措置を検討する場合、次のアからエの対策について、優先度の高い順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
ア 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
イ 危険性又は有害性のより低い物質への代替
ウ 化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
エ 化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用
(1)ア-イ-ウ-エ
(2)ア-イ-エ-ウ
(3)イ-ア-ウ-エ
(4)イ-ウ-ア-エ
(5)エ-ア-イ-ウ
これはリスクアセスメントにおけるリスクの低減措置の検討に関する問題です。
リスクアセスメントとは、労働者の就業に係る危険性または有害性を特定し、それに対しリスク低減措置を検討する一連の流れをいいます。
2014年の法改正により、一定の化学物質を取り扱う場合は、リスクアセスメントの実施が事業者に義務付けられました。
リスクの低減措置の検討として、優先度の高い措置から順番に検討、実施していきます。
ここでは、優先度の高い順に「イ-ウ-ア-エ」となります。
問13 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺などがみられる。
(2)ノルマルヘキサンによる健康障害では、末梢神経障害などがみられる。
(3)N,N-ジメチルホルムアミドによる健康障害では、頭痛、肝機能障害などがみられる。
(4)一酸化炭素は、赤血球中のヘモグロビンに強く結合し、体内組織の酸素欠乏状態を起こす。
(5)塩素による健康障害では、再生不良性貧血、溶血などがみられる。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。塩素は黄緑色の刺激臭のあるガスです。消毒剤や漂白剤に用いられています。
低濃度のばく露では、涙が出る、のどの痛み、咳などがみられます。
高濃度のばく露では、肺に水がたまる肺水腫を生じることがあります。
ちなみに、再生不良性貧血は、ベンゼンのばく露などでみられる造血器障害です。
問14 金属による中毒に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)鉛中毒では、貧血、伸筋麻痺、腹部の疝痛などの症状がみられる。
(2)ベリリウム中毒では、溶血性貧血、尿の赤色化などの症状がみられる。
(3)マンガン中毒では、指の骨の溶解、皮膚の硬化などの症状がみられる。
(4)クロム中毒では、低分子蛋白尿、歯への黄色の色素沈着、視野狭窄などの症状がみられる。
(5)金属水銀中毒では、肺炎、肺気腫などの症状がみられる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。ベリリウム中毒では、吸入すると気管支喘息、接触すると接触性皮膚炎などの症状がみられます。
(3)は誤り。マンガン中毒では、発語障害のほか、筋肉のこわばりによる歩行障害などのパーキンソン病に似た症状がみられます。
(4)は誤り。クロム中毒では、皮膚に対して水疱や潰瘍がみられます。吸入すると鼻中隔穿孔、肺がん、上気道がんを生じることがあります。
(5)は誤り。金属水銀中毒では、手指のふるえ、精神障害などの症状がみられます。
問15 有機溶剤の人体に対する影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)脂溶性であり、脂肪の多い脳などに入りやすい。
(2)呼吸器の中毒の症状には、咳、上気道の炎症などがある。
(3)低濃度の繰り返しばく露による慢性中毒では、頭痛、めまい、記憶力減退、不眠などの不定愁訴がみられる。
(4)皮膚及び粘膜に対する刺激による黒皮症、鼻中隔穿孔などがみられる。
(5)肝障害や腎障害を起こすものがある。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。皮膚や粘膜の症状として、湿疹、皮膚の角化、亀裂、結膜炎などがみられます。
問16 作業環境における騒音及びそれによる健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)音圧レベルは、通常、その音圧と人間が聴くことができる最も小さな音圧(20μPa)との比の常用対数を20倍して求められ、その単位はデシベル(dB)で表される。
(2)等価騒音レベルは、単位時間(1分間)における音圧レベルを10秒間ごとに平均化した幾何平均値で、変動する騒音レベルの平均値として表した値である。
(3)騒音性難聴は、音を神経に伝達する内耳の聴覚器官の有毛細胞の変性によって起こる。
(4)騒音性難聴の初期に認められる4,000 Hz付近を中心とする聴力低下の型をC5dipという。
(5)騒音により、精神的疲労が生じたり、自律神経系や内分泌系が影響されることがある。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。等価騒音レベルは、ある時間範囲について、変動する騒音の騒音レベルをエネルギー的な平均値として表した量です。
1分間における音圧レベルを10秒間ごとに平均化した幾何平均値として求めるものではありません。
問17 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)マイクロ波は、赤外線より波長が短い電磁波で、照射部位の組織を加熱する作用がある。
(2)熱痙攣は、高温環境下での労働において、皮膚の血管に血液がたまり、脳への血液の流れが少なくなることにより発生し、めまい、失神などの症状がみられる。
(3)全身振動障害では、レイノー現象などの末梢循環障害や手指のしびれ感などの末梢神経障害がみられ、局所振動障害では、関節痛などの筋骨格系障害がみられる。
(4)凍瘡は、皮膚組織の凍結壊死を伴うしもやけのことで、0 ℃以下の寒冷にばく露することによって発生する。
(5)金属熱は、金属の溶融作業などで亜鉛、銅などのヒュームを吸入したときに発生し、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられる。
(1)は誤り。マイクロ波は、赤外線より波長が「長い」電磁波です。照射部位の組織を加熱する作用があります。
(2)は誤り。熱痙攣(ねつけいれん)は、高温環境下で発汗により多量に失われた塩分の補給が不十分なとき生じ、血液中の塩分濃度が低下し発生し、筋肉痙攣の症状がみられます。
(3)は誤り。全身振動障害では、振動による不快感の他、腰痛、頸部痛がみられます。局所振動障害では、レイノー現象などの末梢循環障害や手指のしびれ感などの末梢神経障害、関節痛などの筋骨格系障害がみられます。
(4)は誤り。凍瘡(とうそう)は、日常的に起こるしもやけのことです。皮膚組織の凍結壊死が起こるのは凍傷(とうしょう)です。
(5)は正しい。
問18 厚生労働省の「作業環境測定基準」及び「作業環境評価基準」に基づく作業環境測定及びその結果の評価に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)評価の指標として用いられる管理濃度は、個々の労働者の有害物質へのばく露限界を示すものである。
(2)原材料を反応槽へ投入する場合など、間欠的に有害物質の発散を伴う作業による気中有害物質の最高濃度は、A測定の結果により評価される。
(3)B測定は、単位作業場所中の有害物質の発散源から遠い場所で作業が行われる場合等において、作業者の位置における有害物質の濃度を知るために行う測定である。
(4)A測定の第二評価値が管理濃度を超えている単位作業場所は、B測定の結果に関係なく第三管理区分に区分される。
(5)B測定の測定値が管理濃度を超えている単位作業場所は、A測定の結果に関係なく第三管理区分に区分される。
(1)は誤り。管理濃度は、有害物質に関する作業環境の状態を単位作業場所の作業環境測定結果から評価するための指標です。個々の労働者の有害物質へのばく露限界を示すものではありません。
(2)は誤り。A測定は、単位作業場所における有害物質の気中濃度の平均的な分布を知るために行う測定です。
(3)は誤り。B測定は、作業者が発散源にごく近い場所で作業する場合や間欠的に大量の有害物質を発散させる作業がある場合のように、有害物の発散源に近接した作業位置における最高濃度を知るための測定です。
(4)は正しい。
(5)は誤り。B測定の測定値が「管理濃度の1.5倍」を超えている単位作業場所の管理区分は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となります。
問19 局所排気装置に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ダクトの形状には円形、角形などがあるが、その断面積を大きくするほど、ダクトの圧力損失が増大する。
(2)フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、気流の整流作用が増し、大きな排風量が必要となる。
(3)スロット型フードは、作業面を除き周りが覆われているもので、囲い式フードに分類される。
(4)キャノピー型フードは、発生源からの熱による上昇気流を利用して捕捉するもので、レシーバー式フードに分類される。
(5)空気清浄装置を付設する局所排気装置を設置する場合、排風機は、一般にフードに接続した吸引ダクトと空気清浄装置の間に設ける。
(1)は誤り。ダクトの断面積を「小さく」するほど、ダクトの圧力損失が増大します。反対に、ダクトの断面積が大きすぎると搬送速度が不足します。
(2)は誤り。フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、少ない排風量で所要の効果を上げることができます。
(3)は誤り。スロット型フードは、外付け式フードに分類されます。吸い込み口を細い溝状にすることで吸引効果を上げています。
(4)は正しい。
(5)は誤り。排風機は、「吸引ダクト→空気清浄装置→排風機」の順に設置します。排風機に吸引物が入ると、排風機の故障につながることがあります。
問20 呼吸用保護具に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)二種類以上の有毒ガスが混在している場合には、そのうち最も毒性の強いガス用の防毒マスクを使用する。
(2)有機ガス用の防毒マスクの吸収缶の色は、黒色である。
(3)型式検定合格標章のある防じんマスクでも、ヒュームに対しては無効である。
(4)防じんマスクの手入れの際、ろ過材に付着した粉じんは圧縮空気で吹き飛ばすか、ろ過材を強くたたいて払い落として除去する。
(5)有毒ガスの濃度が高い場合には、電動ファン付き呼吸用保護具を使用する。
(1)は誤り。二種類以上の有毒ガスが混在している場合、そのうち最も毒性の強いガス用の防毒マスクを使用したとしても、他の有毒ガスを吸入することになるため、適切な呼吸用保護具を着用しなければなりません。
(2)は正しい。
(3)は誤り。型式検定合格標章のある防じんマスクであれば、ヒュームに対して有効です。なお、ヒュームとは、金属蒸気などが空気中で凝固し、固体の微粒子となって空気中に浮遊しているものをいいます。
(4)は誤り。このような手入れの方法では、ろ過材を破損させるおそれがあります。防じんマスクの手入れは、水洗できるものは水洗し、できないものは湿らせた布などで粉じんをふき取りましょう。
(5)は誤り。有毒ガスの濃度が高い場合には、送気マスクや自給式呼吸器などの給気式呼吸器を使用します。
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