衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2019年4月)
ここでは、2019年(平成31年)4月公表の過去問のうち「労働衛生:一般(有害業務に係るもの以外のもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、第2種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、特例第1種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2019年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2019年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2019年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2019年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2019年4月)
問11 事務室内において、空気を外気と入れ換えて二酸化炭素濃度を1,000ppm以下に保った状態で、在室することのできる最大の人数は次のうちどれか。
ただし、外気の二酸化炭素濃度を400ppm、外気と入れ換える空気量を500m3/h、1人当たりの呼出二酸化炭素量を0.016m3/hとする。
(1)14人
(2)16人
(3)18人
(4)20人
(5)22人
答え(3)
作業場内で衛生管理上、入れ替える必要がある空気量を必要換気量と言い、1時間の空気量で表します。
必要換気量の計算式は次の通りです。
「在室することのできる最大の人数」をNとすると、次のような算出式となります。
500[m3/h]=0.016N[m3/h]÷(1,000[ppm]- 400[ppm])×1,000,000
0.016N×1,000,000=500×60016,000N=300,000
N=18.75
したがって、「在室することのできる最大の人数」は、(3)18人となります。
問12 WBGT(湿球黒球温度)は、作業者が受ける暑熱環境による熱ストレスの評価を行うための指標として有用であるが、次のAからDの温熱要素の測定値のうち、屋内の場合又は屋外で太陽照射がない場合のWBGTを算出するために必要なものの組合せは次のうちどれか。
A 乾球温度
B 自然湿球温度
C 黒球温度
D 気流
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
WBGT指数は、屋外で太陽照射がある場合は、「自然湿球温度」、「黒球温度」および「乾球温度」の3要素の測定値から算出され、屋内および屋外で太陽照射のない場合は、「自然湿球温度」および「黒球温度」の2要素の測定値から算出されます。
問13 厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく健康保持増進対策に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)健康保持増進計画で定める事項には、事業者が健康保持増進を積極的に推進する旨の表明に関することが含まれる。
(2)健康保持増進計画を継続的に推進するため、衛生管理者、衛生推進者等から総括的推進担当者を選任する。
(3)産業医は、健康測定を実施し、その結果に基づいて個人ごとの指導票を作成する。
(4)健康測定の結果に基づき、個々の労働者に対して運動実践の指導を行う産業保健指導担当者を配置する。
(5)健康保持増進措置を実施するためのスタッフの確保が事業場内で困難な場合は、労働者の健康の保持増進のための業務を行う外部のサービス機関などに委託して実施する。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。健康測定の結果に基づき、運動指導に関しては、個々の労働者に対して運動実践の指導を行う「運動実践担当者」を配置します。
なお、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」は、2020年に見直しされました。この問題は旧指針の内容になります。
問14 厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」に基づく、重量物取扱い作業などにおける腰痛予防対策に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)満18歳以上の男子労働者が人力のみで取り扱う物の重量は、体重のおおむね50%以下となるようにする。
(2)腰部保護ベルトは、全員に使用させるようにする。
(3)立ち作業時は身体を安定に保持するため、床面は弾力性のない硬い素材とする。
(4)腰掛け作業の場合の作業姿勢は、椅子に深く腰を掛けて、背もたれで体幹を支え、履物の足裏全体が床に接する姿勢を基本とする。
(5)腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対しては、1年以内ごとに1回、定期に、腰痛の健康診断を実施する。
(1)は誤り。満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね40%以下となるように努めます。
(2)は誤り。腰部保護ベルトについては、一律に使用させるのではなく、労働者ごとに効果を確認してから使用の適否を判断します。
(3)は誤り。床面が硬い場合は、立っているだけでも腰部への衝撃が大きいので、クッション性のある作業靴やマットを利用して、衝撃を緩和します。
(4)は正しい。椅子に深く腰を掛けて、背もたれで体幹を支え、履物の足裏全体が床に接する姿勢を基本とします。また、必要に応じて、滑りにくい足台を使用します。
(5)は誤り。重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対しては、当該作業に配置または再配置する際およびその後「6か月」以内ごとに1回、定期に、所定の項目について医師による腰痛の健康診断を実施しなければなりません。
問15 厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づく措置に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)ディスプレイ画面上における照度は、500ルクス以下になるようにする。
(2)書類上及びキーボード上における照度は、300ルクス以上になるようにする。
(3)ディスプレイは、おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにし、画面の上端が眼と同じ高さか、やや下になるようにする。
(4)単純入力型又は拘束型に該当するVDT作業については、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1~2回程度の小休止を設けるようにする。
(5)VDT作業健康診断では、原則として、視力検査、上肢及び下肢の運動機能検査などを行う。
答え(5)
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。VDT作業健康診断では、下肢(足)の運動機能検査は含まれていません。
2019年7月「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が策定されました。
これにより「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」は廃止されました。
2019年7月以降の試験問題では、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」から出題されます。
なお、情報機器作業とは、ディスプレイ、キーボード等で構成される機器のほか、タブレット、スマートフォン等の携帯用情報機器を用いた作業です。
問16 一次救命処置に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)傷病者の反応がない場合は、その場で大声で叫んで周囲の注意を喚起し、協力者を確保する。
(2)周囲に協力者がいる場合は、119番通報やAED(自動体外式除細動器)の手配を依頼する。
(3)口対口人工呼吸は、傷病者の気道を確保してから鼻をつまみ、1回の吹き込みに約3秒かけて傷病者の胸の盛り上がりが見える程度まで吹き込む。
(4)胸骨圧迫は、胸が約5cm沈む強さで、1分間に100~120回のテンポで行う。
(5)AEDを用いた場合、心電図の自動解析の結果「ショックは不要です」などのメッセージが流れたときには、胸骨圧迫を開始し心肺蘇(そ)生を続ける。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。口対口人工呼吸は、傷病者の鼻をつまみ、1回の吹き込みに「約1秒」かけて傷病者の胸の盛り上がりが見える程度まで吹き込みます。
3秒のように時間を掛けて、過剰な換気をすることは、むしろ有害とされています。
また、人工呼吸による胸骨圧迫の中断を考慮すれば吸気時間は短いほうがよいという考えもあります。
さて、一次救命処置については、AHA(アメリカ心臓協会)が科学的な根拠に基づき心肺蘇生法に関する指針を見直してガイドライン2005を発表しました。
それを受けて日本においても救急蘇生ガイドラインが大きく改訂されました(2006年)。
その後、JRC(日本蘇生協議会)と日本救急医療財団により「JRC蘇生ガイドライン2015」が策定されています(2016年)。
このガイドラインは、最新のデータに基づき定期的に見直されるでしょう。
問17 脳血管障害及び虚血性心疾患に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)脳血管障害は、脳の血管の病変が原因で生じ、出血性病変、虚血性病変などに分類される。
(2)出血性の脳血管障害は、脳表面のくも膜下腔(くう)に出血するくも膜下出血、脳実質内に出血する脳出血などに分類される。
(3)虚血性の脳血管障害である脳梗塞は、脳血管自体の動脈硬化性病変による脳血栓症と、心臓や動脈壁の血栓などが剥がれて脳血管を閉塞する脳塞栓症に分類される。
(4)虚血性心疾患は、門脈による心筋への血液の供給が不足したり途絶えることにより起こる心筋障害である。
(5)虚血性心疾患は、心筋の一部分に可逆的虚血が起こる狭心症と、不可逆的な心筋壊(え)死が起こる心筋梗塞とに大別される。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。虚血性心疾患は、動脈硬化や血栓等で「冠動脈」が狭くなり、血液の流れが悪くなることで起こります。冠動脈は、心臓の筋肉に酸素を送るために、心臓の外側を包み込むようにして走っている血管です。
なお、「門脈」は、消化管から肝臓に栄養素を送るための極めて重要な血管のことですが、ここでは関係ありません。
問18 出血及び止血法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)体内の全血液量は、体重の約8%で、その約3分の1を短時間に失うと生命が危険な状態となる。
(2)止血法には、直接圧迫法、間接圧迫法などがあるが、一般人が行う応急手当としては直接圧迫法が推奨されている。
(3)静脈性出血は、傷口からゆっくり持続的に湧き出るような出血で、通常、直接圧迫法で止血する。
(4)止血帯を施した後、受傷者を医師に引き継ぐまでに1時間以上かかる場合には、止血帯を施してから1時間ごとに1~2分間、出血部から血液がにじんでくる程度まで結び目をゆるめる。
(5)止血を行うときは、処置者の感染防止のため、ビニール手袋を着用したりビニール袋を活用したりして、受傷者の血液に直接触れないようにする。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。止血帯を施した後、長時間医師に引き継げなく30分以上続けるときは、30分ごとに出血点から血液がにじむ程度に1~2分ゆるめます。
問19 食中毒に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)毒素型食中毒は、食物に付着した細菌により産生された毒素によって起こる食中毒で、代表的なものとしてサルモネラ菌によるものがある。
(2)感染型食中毒は、食物に付着した細菌そのものの感染によって起こる食中毒で、代表的なものとして黄色ブドウ球菌によるものがある。
(3)O-157は、腸管出血性大腸菌の一種で、加熱不足の食肉などから摂取され、潜伏期間は3~5日である。
(4)ボツリヌス菌は、缶詰や真空パックなど酸素のない密封食品中でも増殖するが、熱には弱く、80℃程度で殺菌することができる。
(5)赤身魚などに含まれるヒスチジンが細菌により分解されて生成されるヒスタミンは、加熱調理によって分解する。
(1)は誤り。毒素型食中毒は、食物に付着した細菌が増殖する際に産生する毒素によって起こる食中毒で、この毒素を産生する代表的なものとして黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌があります。
(2)は誤り。感染型食中毒は、食物に付着した細菌そのものの感染によって起こる食中毒で、代表的な細菌としてサルモネラ菌や腸炎ビブリオがあります。
(3)は正しい。
(4)は誤り。ボツリヌス菌は、缶詰や真空パックなど酸素のない密封食品中でも増殖し、毒性の強い神経毒(ボツリヌス毒素)を産生します。缶詰、魚のくん製などで発生した事例があります。また、菌が芽胞という耐久性の高い状態になると長時間煮沸しても死滅しません。
(5)は誤り。赤身魚、チーズなどに含まれるヒスチジンが細菌により分解されて生成されるヒスタミンは、加熱処理しても分解されにくいため、予防として低温保存を徹底します。
問20 労働者の健康保持増進のために行う健康測定における運動機能検査の項目とその測定種目との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
(1)筋力 ……………… 握力
(2)柔軟性 …………… 上体起こし
(3)平衡性 …………… 閉眼(又は開眼)片足立ち
(4)敏しょう性 ……… 全身反応時間
(5)全身持久性 ……… 最大酸素摂取量
労働者の健康の保持増進のための活動における健康測定の項目のひとつに運動機能検査があります。
その検査項目と種目として筋力は握力や上体起こし、柔軟性は立位体前屈や座位体前屈、平衡性は閉眼(又は開眼)片足立ち、敏捷性は全身反応時間、全身持久性は自転車エルゴメーターによる最大酸素摂取量間接測定法で測定を行います。
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