鉱業と衛生管理者
鉱業とは、石や金属などの資源を鉱山から採掘する産業のことです。
かつて日本でも全国各地で、石炭、金、銀、銅、鉄などの採掘が盛んに行われていました。しかし、現在の日本の鉱業において、その多くは操業を終了しています。
工業界で利用される主要な金属は、海外鉱山からの輸入に頼っているのが現状です。今ではこれまで日本が培ってきた採掘技術や精錬技術を海外に伝え、連携して、より安全で質の高い資源を輸入するようになっています。
ただし、日本でも石灰石やけい藻土などは、今もなお日本全国の鉱山にて採掘作業が行われています。
鉱業の安全性
鉱業の現場作業には、とても危険なイメージが付きまといます。
自然発生する可燃性ガスによる火災、粉じん爆発、落盤事故など、たちまちこのような重大な事故が起こると、救助は困難を極めます。
最近で言えば、2010年に起こったチリのコピアポ鉱山落盤事故が記憶に新しいでしょう。この事故では、33人の作業員が地下634 mの坑道内に閉じ込められましたが、およそ2か月後に全員が無事に救出されました。この救出の様子は、日本でも連日ニュース番組で取り上げられていました。
このような印象から、病気による労働災害を軽視してしまいがちですが、鉱業においても気を付けなければならない健康障害が存在します。
化学的要因と健康障害
じん肺
鉱業に従事する作業員が、気を付けなければならない健康障害としてじん肺があります。じん肺とは、ある種の粉じんを吸入することで肺の組織が線維化する病気です。
線維化というのは、たとえば転んでヒザを擦りむいた後、傷口が治った後に瘢痕(はんこん)ができるのと同じ現象です。線維化した肺の組織は、酸素と二酸化炭素の交換には役に立ちません。すなわち、この状態が進行すると、肺の酸素交換がきちんとできなくなります。
また、じん肺では初期症状があまり見られないのも大きな特徴です。ですから、気づいた時にはかなり進行している場合もあります。
自覚症状としては、咳、痰、呼吸困難がみられます。また、他覚症状としては、進行すると赤血球の酸素飽和度が低下し、皮膚や唇が青白くなるチアノーゼといった症状がみられます。
さらに恐ろしいのは、じん肺がある程度進行してしまうと、粉じんの吸入を中止しても肺の線維化が進行する性質があることです。
けい肺
じん肺にはいくつかの種類があり、けい肺はその一つです。
けい肺は、遊離けい酸の粉じんを吸入することによって起こり、トンネル工事、鉱山での坑内作業、ガラス加工業などで発生します。
また、遊離けい酸とは、けい藻土やけい石の主成分であり、肺の線維化を起こす作用が強いと言われています。
けい肺が進行すると、胸部のエックス線写真でも、粒状影(肺内にある結節がエックス線写真に写ったもの)が見られるようになります。重症化すると、この粒状影が大きくなります。
鉱業において、じん肺を防ぐには適切な呼吸用保護具を使用することが最も重要です。もちろん、着用方法も適切でなければ、マスクの隙間から粉じんを吸入してしまいます。
また、作業を進めることで発生する粉じんを、坑内に溜め込まないように、換気なども十分行う必要があります。
鉱業でのその他の健康障害
鉱業におけるその他の健康障害として、掘削機器による騒音ばく露で発生する聴覚障害があります。また、メタンガス・硫化水素など火山性ガスによる窒息・中毒にも注意が必要でしょう。
私たちは、一般消費者として普段からあらゆる資源を利用しています。その資源は、鉱業によって日々採掘されていますが無限にあるわけではなく、遠い未来には無くなる日が来るでしょう。今ある資源の有効活用について、一度じっくりと考えてみるのはいかがでしょうか。
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