衛生管理者が知らないでは済まされない感染症のこと
2014年の夏。
日本ではおよそ70年ぶりに、デング熱の感染者が出たと発表がありました。デング熱は、デングウイルスを持った蚊に刺されることで感染し、高熱、頭痛、筋肉痛、発疹といった症状がみられます。
また、2016年に入って、中南米の方でジカ熱が猛威を振るっています。デング熱同様、ジカ熱もジカウイルスを持った蚊に刺されることで感染し、高熱、頭痛、筋肉痛、発疹の症状がみられます。
ただし、ジカ熱が厄介なのは、妊娠中に感染すると産まれてくる赤ちゃんに脳の発達が不十分になる小頭症を発症するリスクが大きくなることです。また、成人であっても、ジカ熱に感染することで、手足の神経が一時的にマヒして動かなくなるギラン・バレー症候群を発症するおそれがあるとされています。
そして、2019年12月に中国の武漢市で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が報告され、日本においても、2020年1月15日に最初の感染者が確認されました。その後数か月で、世界的な大流行(パンデミック)となりました。
感染すると多くの場合は、2~6日の潜伏期間を経て発症しますが、発熱、喉の痛み、長引く咳、強い倦怠感などの症状がみられます。
さて今回は、このような微生物による感染症について、衛生管理者として知っておきたいことをご紹介いたします。
菌とウイルス
ここで簡単に、菌とウイルスの違いについて確認しておきます。私たちの身の回りには、菌やウイルスといった微生物が無数に存在しています。
まず、菌とウイルスは、見た目の大きさが異なります。といっても、どちらも小さくて肉眼で見ることはできません。
菌は1マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)程度の大きさで、ウイルスはさらに小さくて数10ナノメートル(1マイクロメートルの100分の1)程度の大きさです。
また、菌は自ら増殖することができますが、ウイルスは単独では増殖できませんので私たちの細胞の中に入り込んで増殖します。
感染するには
感染するには、感染源(微生物を持つもの)、感染経路(微生物が伝わる道筋)、感染の受けやすさ(人間の抵抗力)の3つの要素が必要になります。
微生物が病気を引き起こす力は病原性と言われ、「病原力」と「量」で決定されます。病原性が人間の抵抗力よりも強くなった場合には感染してしまいます。そして、感染することによって症状が引き起こされることを感染症といいます。
病原性が非常に強い場合は誰でも感染してしまいますが、疲れが溜まっていたりストレス状態にあるなどして抵抗力が弱っている場合には、普段は感染しない菌によって病気を発症することがあります。これを日和見感染(ひよりみかんせん)といいます。
キャリアーとは
微生物により感染し、症状が現れるまでの期間を潜伏期と言います。そして、症状が現れない状態が続くことを、不顕性感染(ふけんせいかんせん)と呼びます。
冒頭のジカ熱であれば、蚊に刺されて感染したとしても約80%の人が症状が現れない不顕性感染だそうです。
症状が現れるまでのものは、キャリアー(保菌者)と呼ばれて、症状が出ていないので感染したことに気付かずに、病原体をばらまく感染源になることがあります。
感染経路とは
人間、動物、それらの排せつ物などが感染源となり、微生物が人体に伝わって感染する道筋を感染経路と呼びます。感染経路は次のように5つに分類されています。
1.接触感染
直接、感染源と接触することによって感染します。接触感染では、病院や介護施設など同じ施設内などで感染する頻度が高いです。
医療従事者が患者を適切に隔離しないことが原因となります。アデノウイルス、はしか、水ぼうそうなどで生じやすいとされています。
2.飛沫感染
感染源の人が咳やくしゃみをして、唾液に混じった微生物が飛散し、粘膜に付着することで感染します。飛沫は粒が大きいので、空気中に浮遊し続けることはありません。
インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、かぜ症候群、細菌性肺炎などの代表的な感染経路です。
3.マイクロ飛沫感染
非常に小さい飛沫である5マイクロメートル未満の粒子が、換気の悪い密室において空気中を漂って感染します。
新型コロナウイルス感染症などの感染経路です。
4.空気感染
微生物を含む飛沫の水分が蒸発して、5マイクロメートル以下の小粒子として長時間空気中に浮遊して感染します。感染源の人の部屋と空調が連結している場合などで、同じ空気を呼吸していることが原因となります。
結核、はしか、水ぼうそうなどは空気感染することがあります。ですから、これらの感染が疑われた場合、一般の人と接触することができない隔離措置が取られます。
5.物質媒介型感染
汚染された食物、水、血液、器具などにより伝えられて感染します。食中毒、B型肝炎、C型肝炎などの感染経路です。
たとえば、B型肝炎、C型肝炎は、健康診断や予防接種の注射針を共有することが原因となります。
6.昆虫媒介感染
蚊、ハエ、鳥、ネズミなどを経由して伝わることにより感染します。
冒頭に出てきた、デング熱、ジカ熱、マラリアなどは蚊が媒介します。高熱、発疹、頭痛などの症状が出るリケッチア症は、山林に生息するダニが媒介します。
知っておこう!代表的な感染症
ここからは衛生管理者として知っておきたい感染症を紹介いたします。いずれも対策なしでは感染しやすく、職場内での流行に注意が必要な感染症です。
結核
結核とは結核菌に感染して発病する伝染病です。
初期症状としては風邪のような症状が出ますが、2週間以上の長引く咳や痰(たん)、微熱や倦怠感があり、通常のかぜ薬や抗生物質では治りません。重症化すると呼吸困難に陥り死に至ります。
1950年までは死亡原因第1位だったのですが、現在は20位以下になっています。「結核なんて昔の病気だ」と思う人も多いかもしれませんが、分かっているだけでも新たに感染する人が年間約2万人もおり、2千人以上が結核で亡くなられています。
結核は空気感染しますので、吐き出す痰に結核菌が含まれる場合は、入院して隔離措置を取ります。職場において、結核を伝染させるかもしれない患者に対しては、産業医と相談して就業を禁止させる措置が必要でしょう。
インフルエンザ
インフルエンザにはA、B、Cの3つの型があり、流行するのはA、Bです。一般的に日本では、11月下旬ころから流行し、5月上旬までには減少します。
インフルエンザは、ぜんそくなど呼吸器系の慢性疾患、肺炎などと合併症になりやすことから注意が必要です。
潜伏期は1日~3日で、一般に38℃以上の高熱、頭痛、全身の倦怠感、関節痛などが突然現れます。咳や鼻水を伴い約1週間で快復しますが、風邪よりも全身症状が強くとても体が辛いでしょう。
タミフル、リレンザといった抗ウイルス薬を、発病後2日以内に服用すれば症状を軽くできます。
予防には、うがいや手洗いをしっかりするとともに、インフルエンザワクチンの接種が望ましいでしょう。特に医療従事者、介護労働者などは積極的にワクチンを接種します。
風しん
風しんは、発熱、発疹(しん)、リンパ節腫脹(ちょう)を特徴とするウイルス性発疹(しん)症で、免疫のない女性が妊娠初期に風しんにかかると、胎児に感染し出生児が先天性風しん症候群(CRS)となる危険性があります。
風しんは感染力が強く、特に成人になってから発症した場合、高熱、発疹、関節痛など小児より重症化しやすいとされています。
ノロウイルス
ノロウイルスは食中毒の一種で、冬季に集団食中毒として発生することが多いことで知られています。
食品、患者の嘔吐物などの飛沫から経口的に摂取されたノロウイルスが、人間の小腸で増殖して急性胃腸炎が生じます。潜伏期は1~2日間で、発症すると吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れます。
ウイルスは症状が消えた後も、1週間程度、患者の便中に排出されるため、家庭や職場では衣類を区別して洗濯し手洗いをしっかり行いましょう。アルコール消毒はノロウイルスに効果がないですが、食品などでは加熱すればノロウイルスは死んでしまいます。
まとめ
急速な国際化、海外との国際交通網の発達により、新たな感染症が日本に持ち込まれる可能性も大きくなっています。
職場での感染症対策は、働く人の健康を守り、生産活動を支障なく進めるという観点からとても重要な課題です。
自分のために、仲間のために、あなたの職場でもしっかりとした対策を行いましょう。
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