衛生管理者として“肥満”と向き合う
肥満の人口は、加速的に増えています。
2014年に発表された世界的な肥満調査によると、世界全体で21億人が太り過ぎ(過体重)になっています。
そして、このうち6億7,100万人は、本格的な肥満だそうです。世界の肥満人口は1980年に比べて2倍以上に増加しているといいます。
「国民健康・栄養調査(厚生労働省調べ 2014年)」によると、日本における肥満者の割合は男性28.7%、女性21.3%でした。
1987年では、男性で20.4%、女性で21.2%でしたので、女性は横ばいですが男性では増えているのがわかります。
世界が肥満対策に乗り出した
肥満人口の増加にともない、各国は肥満対策に力を入れるようになってきました。
たとえば、肥満率が30%を超える肥満大国アメリカでは、2009年から全米の公立小中学校で、糖分の多い清涼飲料水の販売が禁止されています。
また、2015年には米国の一部の地域で、炭酸飲料、ファストフード、スナック菓子など高カロリー、高脂質の食べ物に対してジャンクフード税が導入されました。
世界的に見て、肥満はもはや社会問題となっているのです。肥満がこれほどまでに問題となるのは、心筋梗塞や脳梗塞、さらには一部のがんなど命にかかわる病気を招き寄せるからです。
そこで今回は、肥満としっかりと向き合って、衛生管理者として健康職場づくりに役立ててください。
職場の健康診断でわかる肥満
原則、事業者は従業員を雇うとき、またその後1年に1回、一定の項目についてその従業員に健康診断を行わなければなりません。
このときの検査項目には、「血圧の測定」「尿検査」などがありますが、「身長」「体重」の検査も含まれています。
さて、肥満について学ぶためには、肥満の程度を表す指標が必要になってきます。
もっともわかり易い指標は、体重でしょう。でも、肥満の程度を体重だけで判断するのは、少し乱暴です。なぜなら体重だけでは、身長や筋肉量の違いが、考慮されていないからです。
人が太るのは、体内に脂肪が蓄積されるからで、健康に大きな影響を与えるのは内臓に付く脂肪です。
その意味から考えれば、肥満の程度を示す指標としては、体重のうち脂肪が占める割合である「体脂肪率」が相応しいことになります。でも、体脂肪率を厳密に測定するには、正確な測定タイミングなどが必要であり手間が掛かります。
そこで重宝されているのが、身長と体重の値を元にした「BMI」という指標です。BMIは、Body Mass Index(ボディー・マス・インデックス)の略で、ビー・エム・アイと読みます。
BMIは肥満度を測る簡便な指標
統計上、多くの人のBMIの値は、体脂肪率の値とよく対応していることがわかっています。
このため現在、世界保健機関(WHO)や世界各国では、肥満の程度をあらわす指標としてはBMIを用いるのが一般的になりました。
その計算方法は、体重(kg)÷{身長(m)の2乗}で表されます。
たとえば、身長170 cmで体重65 kgの人のBMIは、65÷(1.7×1.7)で、およそ22.5になります。
BMIの計算方法は、衛生管理者の試験でもしばしば出題されることがありますので覚えておきましょう。身長はm単位で計算することに注意ですね。
肥満の分類について
BMIの値が大きければ大きいほど、肥満の程度が高いことを示しています。
世界保健機関(WHO)では、成人の場合、BMIの値が25以上の場合を過体重、30以上の場合を肥満と定義しています。
日本については、BMIの値が30以上の成人は約3%(WHO調べ 2001年)です。世界的に見れば、日本は肥満人口が少ないということになります。
しかし、日本人は欧米人に比べてBMIの値が比較的小さくても、肥満に伴う糖尿病などの病気が発症しやすいと言われています。
このため日本は独自にWHOよりも厳しい基準を設定しており、日本肥満学会ではBMIの値が25以上で肥満としています。
なお、肥満の中にも、程度に応じた分類があって、BMIの値が25以上30未満は1度、30以上35未満は2度、35以上40未満は3度、40以上は4度とされています。
肥満の分類 | BMIの値 |
---|---|
低体重 | 18.5未満 |
普通体重 | 18.5以上 25未満 |
肥満(1度) | 25以上 30未満 |
肥満(2度) | 30以上 35未満 |
肥満(3度) | 35以上 40未満 |
肥満(4度) | 40以上 |
BMI値が高すぎると色んな病気になる
かつて、BMIの値と病気の関係について、ある調査が行われました。それは自治体の約4000人の職員の1986年の健康診断結果を分析したものです。
この分析ではまず、各職員の身長と体重のデータをもとに、BMIの値を求めました。
そして、「高血糖(血液中の糖濃度が高くなる症状)」、「脂質異常症(血液中の脂質の量に異常が生じる症状)」、「高血圧(血圧が高い状態が続く症状)」など主要な10種類の疾患や症状それぞれについて、何%の職員が発症しているのかBMIの値ごとに調べました。
その結果、高血糖、脂質異常症、高血圧などの6つの疾患についてはBMIの値が高くなればなるほど、発症している割合も高くなる傾向が見られました。
たとえば、高血糖についてはBMIの値が22前後の人に比べて、BMIの値が30前後の人では、発症している人が約1.5倍になりました。脂質異常症については同様の比較で約3.5倍、高血圧については約3倍になったのです。
ただし、BMIの値が低いほど発症しやすい疾患や、BMIの値と明確な関係が見えない疾患もありました。
BMIの値が22なら健康リスクは少ない
この分析ではさらに、10種類の疾患のデータを統合して、各職員が合計いくつの疾患を発症しているのか、BMIの値ごとに疾患の個数の平均値を求めました。
横軸にBMIの値、縦軸に平均の疾患の数を取りグラフに表すと「J」の字を少し右に傾けたようになったのです。
つまり、BMIの値が大きくなればなるほど、たくさんの病気になるリスクが高いということが示されたのです。
逆に言えば、この「J」の字の底のBMIの値が、最も健康的なBMIの値と言う事でもあります。この調査では、そのBMIの値はおよそ22でした。
日本ではこの結果をもとに、BMIの値が22の時が最も健康のリスクが少ない標準体重だとされ、また肥満の基準値としてBMIの値が25以上と定められたのです。
BMIは万能ではない
これまで見てきたように、BMIの値は肥満の程度と病気のなりやすさをあらわす指標として有効なのですが、決して万能ではありません。
筋肉が多い人と脂肪が多い人の場合、身長と体重が同じならBMIも同じ値になりますが、実際の体脂肪率は違った値になります。
たとえば、お相撲さんや体の大きなアスリートは体重が重たいですが、内臓脂肪の量は少ないので、BMIだけでは健康のリスクを調べることはできないのです。
衛生管理者として、肥満についてかなり詳しくなったのではないでしょうか?
健康診断結果にBMIがありますが、それがどんなものなのかわかるようにしておきましょう。そして健康な職場づくりを心掛けてください!
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