製造業の衛生管理者
モノづくり大国ニッポン。
天然資源の少ない日本は、モノを加工して付加価値を付けて国内外に提供することで豊かな国になってきました。
生産拠点が国外に移ってしまう『産業の空洞化』が叫ばれてから久しいですが、まだまだ日本の製造業は世界の中で大きな役割を担っています。
さて、製造業と一口に言っても、あらゆる種類の業種が存在します。総務省が定める日本標準産業分類(平成26年4月1日施行)によると製造業は次のように分類されています。
平成24年の総務省統計局のデータによると、民間の製造業の事業所で働く人の数は、卸売業・小売業に次ぐ第2位でおよそ927万人が働いています。
上記で見たように製造業の業種は様々で、たくさんの人が従事するためそれだけ充実した衛生管理が必要になります。
それでは製造業での衛生管理について、過去の労働災害とその対策などから探っていきましょう。
有害物による健康障害
トリクロロエチレンによる中毒
製造業で重大な労働災害につながる健康障害は、有害物によるものが多くなっています。
たとえば、製品の油汚れを落とすためによく使われる、トリクロロエチレンで起こった労働災害があります。
自動車部品の製造業において、作業者がトリクロロエチレンを入れた事のある洗浄層の底に溜まった鉄くずやヘドロをスコップで取り除いていました。
このとき作業者が高濃度のトリクロロエチレンの蒸気を吸い込んでしまったため、意識を失い救急搬送されましたがその後死亡しました。
原因は換気が不十分で、マスクなどの保護具も着用していなかったことです。また、薬品の危険有害性の認識が甘く、安全衛生教育も不十分だったと言えます。
重クロム酸カリウムによる中毒
ガラスびんの製造工場で、重クロム酸カリウムによる労働災害が起こりました。
重クロム酸カリウムは、緑色のガラスびんを製造するために使われる固体物質です。
作業者は、貯蔵設備に入っている重クロム酸カリウムの残量確認を行っていました。貯蔵設備を上から、懐中電灯で照らして覗き込んだ際、誤って懐中電灯を落としてしまいました。
懐中電灯を拾うために、貯蔵設備の中に入ったところ、1時間に渡りその場から出られなくなり、重クロム酸カリウムの粉じんを大量に吸い込んでしまいその後死亡しました。
作業者は防じんマスクを着用していましたが、貯蔵設備内が暑かったためマスクを外していたのです。この事故を防ぐには、作業手順を徹底し、イレギュラーな事が起こった時にどのように対応するのか決めておくべきでしょう。
塩素ガスによる中毒
食料品製造業の調理室内において、クエン酸液と次亜塩素酸ナトリウム液の2つのタンクが付属する洗浄水製造装置を用いて野菜の殺菌が行われていました。
洗浄水製造装置に被災者の1人が誤って、次亜塩素酸ナトリウム液をクエン酸液のタンクへ注いでしまいました。
その結果、塩素ガスが発生し室内に充満したのです。室内にいた3名がこれを吸引し、呼吸困難等の塩素ガス中毒となりました。
濃度が高い「次亜塩素酸塩溶液」と「酸性溶液」が混触すると、塩素ガスが発生し大変危険です。このことは、衛生管理者の試験でもよく出てくるので覚えておきましょう。
騒音による健康障害
魚介類の食料品製造業の工場で、金属パレットに加工食品を入れる作業を数人で行っていました。
金属パレットは、コンベアーで運ばれて、自動的に積み重さなっていきます。
この日は、コンベアーの調子が悪くて、金属パレットが積み重なる際、いつもよりも大きな騒音がしていました。
この騒音に数時間ばく露された作業者数人が、作業後に耳の不調を訴え、騒音性難聴と診断されました。
騒音性難聴は、音を感じる細胞自体が障害を受けてしまうため、治りが悪い特徴があります。したがって、耳栓やイヤーマフを使って、予防することが最重要になります。
特に大きな騒音の場合は、耳栓とイヤーマフの両方を使うと有効です。これも、衛生管理者の試験に出題されることがあるので覚えておくとよいでしょう。
温熱環境による健康障害
製造業の現場では、機械動作による産熱、高温物体からの放熱などがあり、暑熱環境下での作業になることがあります。
また、作業の性質上、窓や扉を開けて簡単に換気できない場合もあり、風通しが悪い中での作業となるため、作業環境中の温度は上昇します。
このような環境では、熱中症に注意が必要です。
熱中症になりやすい人には、いくつかの条件があります。たとえば、寝不足の人、疲れがたまっている人、前日アルコールを飲んだ人、暑さに慣れていない人などです。
作業開始前のミーティングで、これらの項目は健康状態とともにチェックするべきでしょう。また、作業中には熱中症を未然に防ぐために、水分・塩分補給と適度な休憩を取ることが重要です。
非電離放射線による健康障害
非電離放射線とは、赤外線、紫外線、マイクロ波、レーザー光線などの光の事を言います。
日常的にありふれた光なのですが、製造業などで使う場合は強力な光として取り出すため、それらにばく露されると障害を起こすことがあります。
赤外線は、溶鉱炉など高温の物体から放射されますが、長期間のばく露で眼の障害である白内障が起こることがあります。
紫外線は、溶接時に発生する光に含まれますが、眼に大量に紫外線が入ると電光性眼炎が起こります。
マイクロ波は、電気メスなどに使われますが、強力なマイクロ波にばく露されると組織の火傷や壊死を起こします。
そして、レーザー光線は、半導体製造業や金属加工場などで使用されていますが、人体に照射された場合、組織の温度を上昇させ損傷を起こします。また、眼に入ると網膜が火傷を起こして、失明などの視力障害も起こります。強力なレーザー光線の場合、一瞬でも眼に入ると網膜が火傷を起こしてしまうので、その部分は視力を失うことになります。
これら非電離放射線による眼への障害は、適当な保護メガネをきちんと着用して防ぐようにしましょう。
夜勤・交替勤務による健康障害
製造業の工場では、安定した生産を行うために操業を休まずに行う場合があります。
そのような場合は、夜勤や交替勤務が必要になります。
人間は日中に活動しやすい生体リズムを持っているため、夜勤や不規則な時間での勤務は肉体的・精神的負担が大きいとされています。
このような勤務と因果関係が指摘されている健康障害として、不眠、疲労、不快感、胃腸障害、虚血性心疾患などがあります。
また、家族との団らん、余暇の過ごし方、食事の摂り方など、色々な要因が交代勤務者の心身への変化に影響を及ぼします。
かつては夜勤も続けていれば、体が慣れると考えられていましたが、近年は夜勤を長くやっても慣れることはないとされています。夜勤の連続日数は3日までにすべきという意見が強く、現在はそれが主流となってきています。
製造業では会社独自の衛生管理を
冒頭に見たように、製造業と言えど様々な業種があり、その業種独自の有害性が潜んでいます。
安全で安心できる職場を作っていくには、それらに対応できる専門的な衛生管理の知識が必要になります。
衛生管理者の試験問題は広く薄くですが、免許を取得されて職場に戻った時には、ぜひご自身の会社の有害リスクを洗い出して対策を考え、衛生管理のプロフェッショナルになってください。
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