衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2014年10月)
ここでは、2014年(平成26年)10月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第一種衛生管理者、特例第一種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第二種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2014年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2014年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2014年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2014年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2014年10月)
問11 労働衛生対策を進めるに当たっては、作業環境管理、作業管理及び健康管理が必要であるが、その中の作業管理に関する次の記述のうち、不適切なものはどれか。
(1)作業管理とは、局所排気装置の設置等の工学的な対策によって、作業環境を良好な状態に維持することをいう。
(2)作業管理を進めるには、作業の実態を調査・分析し、評価して、作業の標準化、労働者の教育、作業方法の改善等を行っていくことが重要である。
(3)作業管理の手法は、労働生理学的手法、人間工学的手法等、多岐にわたる。
(4)作業管理の内容には、作業方法の変更などにより作業負荷や姿勢などによる身体への悪影響を減少させることが含まれる。
(5)作業管理の内容には、労働衛生保護具の適正な使用により有害な物質への身体ばく露を少なくすることが含まれる。
(1)は不適切。このような工学的な対策は、作業環境管理の範疇になります。作業管理は、作業と人との調和を目的としていると覚えておきましょう。
(2)は適切。作業者が作業中に有害な影響を受ける度合いは、作業の内容や作業のやり方によって大きく異なります。ですからまず、作業実態の調査・分析から始めます。
(3)は適切。人間工学とは、人間と物との関係を主として取扱い、工場やオフィスで働いている人たちが、その職場で快適に、安全に、そして能率よく作業するために役立つ学問です。
(4)は適切。たとえば、デスクワークの場合、人間工学的によく研究された椅子を用いるのが良いでしょう。
(5)は適切。それぞれの有害作業に適合した労働衛生保護具を使用させましょう。
問12 有害物質とその常温、常圧(25℃、1気圧)での空気中における状態との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
ただし、ガスとは、常温、常圧で気体のものをいい、蒸気とは、常温、常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)塩素 ・・・・・・・・・・・・ ガス
(2)アセトン ・・・・・・・・・・ 蒸気
(3)硫酸ジメチル ・・・・・・・・ 蒸気
(4)ニッケルカルボニル ・・・・・ 粉じん
(5)ジクロルベンジジン ・・・・・ 粉じん
(4)は誤り。ニッケルカルボニルは、金属精錬業で発生するニッケル化合物で、空気中においては『蒸気』として存在します。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問13 有害化学物質に関する次の文中の[ ]内に入れるA及びBの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「消毒や漂白等に用いられる次亜塩素酸塩溶液と、洗浄や水処理等に用いられる[ A ]溶液が混触すると、人体に有害な[ B ]ガスが発生し、中毒を起こすことがある。」
(1)[A]アルカリ性 [B]弗化水素
(2)[A]酸性 [B]塩素
(3)[A]アルカリ性 [B]塩化水素
(4)[A]酸性 [B]弗化水素
(5)[A]アルカリ性 [B]塩素
(2)は正しい。次亜塩素酸塩溶液と『酸性』溶液が混触すると、『塩素』ガスが発生します。薬局などで手に入る溶液でも、混触すれば塩素ガスが発生してしまうので注意が必要です。
仕事場だけでなく、一般家庭においても誤使用による塩素ガス発生の事故がしばしば起こっています。
(1)(3)(4)(5)は誤り。
問14 作業環境における騒音及びそれによる健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)騒音レベルの測定は、通常、騒音計の周波数補正回路のA特性で行い、その大きさはdB(A)で表示する。
(2)騒音性難聴は、初期には気付かないことが多く、また、治りにくいという特徴がある。
(3)騒音は、自律神経系や内分泌系へも影響を与え、交感神経の活動の亢進や副腎皮質ホルモンの分泌の増加が認められることがある。
(4)騒音性難聴では、通常、会話音域より高い音域から聴力低下が始まる。
(5)等価騒音レベルは、変動する騒音のある時間範囲について、250、500、1000、2000、4000及び8000 Hzの音圧レベルの平均値として表した量である。
(1)は正しい。A特性の他にも、C特性や平坦特性がありますが、通常の測定では用いられません。
(2)は正しい。自覚しにくく、治りが悪いので、予防が重要になってきます。
(3)は正しい。ストレスを感じた時と同じ生理的反応を示します。
(4)は正しい。騒音性難聴では、音源がないのに「キーン」と音が聞こえる耳鳴りを伴うことが多いといわれています。
(5)は誤り。等価騒音レベルは、ある時間範囲について、変動する騒音の騒音レベルをエネルギー的な平均値として表した量です。
問15 金属等による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)金属水銀中毒では、感情不安定、幻覚などの精神障害や手指の震えなどがみられる。
(2)鉛中毒では、貧血、末梢神経障害、腹部の疝痛などがみられる。
(3)マンガン中毒では、指の骨の溶解、肝臓の血管肉腫などがみられる。
(4)カドミウム中毒では、上気道炎、肺炎、腎障害などがみられる。
(5)砒素中毒では、角化症、黒皮症などの皮膚障害や鼻中隔穿孔などがみられる。
(3)は誤り。マンガンは脳を攻撃することで知られ、筋のこわばり、震え、歩行困難などのパーキンソン病に似た神経症状を生じます。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
問16 作業環境における有害因子による健康障害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)電離放射線による中枢神経系障害は、確率的影響に分類され、被ばく線量がしきい値を超えると発生率及び重症度が線量に対応して増加する。
(2)熱痙攣は、多量の発汗により体内の水分と塩分が失われたところへ水分だけが補給されたとき、体内の塩分濃度が低下することにより発生する。
(3)金属熱は、金属の溶融作業において、高温環境により体温調節中枢が麻痺することにより発生し、長期間にわたる発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)凍瘡は、皮膚組織の凍結壊死を伴うしもやけのことで、0 ℃以下の寒冷にばく露することによって発生する。
(5)潜水業務における減圧症は、浮上による減圧に伴い、血液中に溶け込んでいた酸素が気泡となり、血管を閉塞したり組織を圧迫することにより発生する。
(1)は誤り。電離放射線による中枢神経系障害は、確率的影響ではなく、確定的影響に分類されます。確定的影響では被ばく線量がしきい値を超えると、発生率及び重症度が線量に対応して増加します。
(2)は正しい。
(3)は誤り。金属熱は、体温調節中枢の麻痺とは関係ありません。金属熱は、亜鉛などの金属の溶解時に発生するヒュームを吸入した後に生じる疾病で、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられます。
(4)は誤り。凍瘡とは、いわゆるしもやけのことで、異常な寒冷にばく露することによって発生する凍傷とは異なります。
(5)は誤り。減圧症では、酸素ではなく、血液中に溶け込んでいた窒素が気泡となり、血管を閉塞したり組織を圧迫することにより発生します。
問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)一酸化炭素による中毒では、ヘモグロビン合成の障害による貧血、溶血などがみられる。
(2)シアン化水素による中毒では、細胞内での酸素利用の障害による呼吸困難、痙攣などがみられる。
(3)硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺などがみられる。
(4)二酸化硫黄による慢性中毒では、慢性気管支炎、歯牙酸蝕症などがみられる。
(5)弗化水素による慢性中毒では、骨の硬化、斑状歯などがみられる。
(1)は誤り。一酸化炭素による中毒では、息切れ、頭痛から始まり、虚脱や意識混濁がみられます。
(2)は正しい。シアン化水素による中毒は、細胞内の呼吸酵素と結合して、細胞内の酸素の利用の障害によって発生します。
(3)は正しい。硫化水素は、窒息性ガスのひとつで、それ自体に有害性があります。
(4)は正しい。二酸化硫黄は、刺激性ガスのひとつで、亜硫酸ガスともいわれ、刺激臭のある無色の気体です。
(5)は正しい。弗化水素による急性中毒では、眼などへの刺激が起こり、高濃度ばく露では肺炎、肺水腫、腎障害がみられます。
問18 有害物質を発散する屋内作業場の作業環境改善に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)粉じんを発散する作業工程では、密閉化や自動化を局所排気装置等の設置に優先して検討する。
(2)局所排気装置を設ける場合、ダクトが太すぎると搬送速度が不足し、細すぎると圧力損失が増大することを考慮して、ダクト径を決める。
(3)局所排気装置に設ける空気清浄装置は、ダクトに接続された排風機を通過した後の空気が通る位置に設置する。
(4)有害物質を取り扱う装置を構造上又は作業上の理由で完全に密閉できない場合は、装置内の圧力を外気圧より低くする。
(5)局所排気装置を設置する場合は、給気量が不足すると排気効果が低下するので、排気量に見合った給気経路を確保する。
(3)は誤り。排風機に汚染された空気が入ると故障の原因となる為、排風機は空気清浄装置の後の位置に設置します。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
問19 呼吸用保護具に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)一酸化炭素用の防毒マスクの吸収缶の色は、赤色である。
(2)トルエン等の有機ガス用の防毒マスクの吸収缶の色は、黄色である。
(3)型式検定合格標章のある防じんマスクでも、ヒュームに対しては無効である。
(4)防じんマスクの手入れの際、ろ過材に付着した粉じんは圧縮空気で吹き飛ばすか、ろ過材を強くたたいて払い落として除去する。
(5)防じんマスクや防毒マスクの使用にあたっては、面体と顔面の間にタオルなどを当てて、密着度を高めるとよい。
(1)は正しい。
(2)は誤り。有機ガス用の防毒マスクの吸収缶の色は、黒色です。ちなみに、黄色は硫化水素用です。
(3)は誤り。型式検定合格標章のある防じんマスクであれば、ヒュームに対して有効です。なお、ヒュームとは、金属蒸気などが空気中で凝固し、固体の微粒子となって空気中に浮遊しているものをいいます。
(4)は誤り。このような手入れの方法では、ろ過材を破損させるおそれがあります。防じんマスクの手入れは、水洗できるものは水洗し、できないものは湿らせた布などで粉じんをふき取りましょう。
(5)は誤り。面体と顔面の間にタオルなどを当てると、密着度が低くなってしまいます。タオルが隙間となり、汚染空気が隙間から侵入するからです。
問20 特殊健康診断に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「特殊健康診断における有害物の体内摂取量を把握する検査として、代表的なものが生物学的モニタリングである。
有機溶剤の場合は生物学的半減期が[ A ]ので、有機溶剤等健康診断における[ B ]の量の検査においては、[ C ]の時刻を厳重にチェックする必要がある。」
(1)[A]短い [B]有機溶剤代謝物 [C]採尿
(2)[A]長い [B]有機溶剤代謝物 [C]採血
(3)[A]短い [B]尿中蛋白 [C]採血
(4)[A]長い [B]尿中蛋白 [C]採尿
(5)[A]短い [B]血清トリグリセライド [C]採尿
(1)は正しい。有機溶剤の場合は生物学的半減期が『短い』ことで知られています。
体内に吸収された有機溶剤の多くは体内で代謝され、尿中に『有機溶剤代謝物』として排泄されます。
その量を正確に検査するために『採尿』の時刻は厳重にチェックします。
(2)(3)(4)(5)は誤り。
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