衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2019年10月)
ここでは、2019年(令和元年)10月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、特例第1種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第2種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2019年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2019年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2019年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2019年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2019年10月)
問11 労働衛生対策を進めるに当たっては、作業管理、作業環境管理及び健康管理が必要であるが、次のAからEの対策例について、作業管理に該当するものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A VDT作業における作業姿勢は、椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分あて、履き物の足裏全体が床に接した姿勢を基本とする。
B 有機溶剤業務を行う作業場所に設置した局所排気装置のフード付近の気流の風速を測定する。
C 放射線業務において管理区域を設定し、当該場所に立ち入る必要のある者以外の者を立ち入らせない。
D ずい道建設工事の掘削作業において、土石又は岩石を湿潤な状態に保つための設備を設ける。
E じん肺健康診断の結果、粉じん業務に従事することが健康の保持のために適当でないと医師が認めた者を配置転換する。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,D
(4)C,E
(5)D,E
答え(2)
A,Cは、作業管理に該当します。
B,Dは、作業環境管理に該当します。
Eは、健康管理に該当します。
▼「VDT作業」は「情報機器作業」に変更されました。
パソコンなどを使用する職場での労働衛生管理については、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(VDTガイドライン)」が、平成14年4月に定められ、各事業場に指導が行われてきました。
しかし、さらなるIT化の進行により、細かな労働衛生管理が必要となったことを受け、新たに「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」が、令和元年7月に定められ、これによりVDTガイドラインが廃止されました。
選択肢Aでは「VDT作業」の表記がありますが、令和元年7月以降の試験では「情報機器作業」と表記されますのでご注意ください。
【参考】情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて
問12 次の化学物質のうち、常温・常圧(25℃、1気圧)の空気中で蒸気として存在するものはどれか。
ただし、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)塩化ビニル
(2)ジクロロベンジジン
(3)アセトン
(4)二酸化硫黄
(5)アンモニア
(1)は誤り。塩化ビニルは、ガスとして存在します。
(2)は誤り。ジクロロベンジジンは、粉じんとして存在します。
(3)は正しい。アセトンは、蒸気として存在します。
(4)は誤り。二酸化硫黄は、ガスとして存在します。
(5)は誤り。アンモニアは、ガスとして存在します。
問13 有機溶剤に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)有機溶剤の多くは、揮発性が高く、その蒸気は空気より軽い。
(2)有機溶剤は、脂溶性が低いため、脂肪の多い脳などには入りにくい。
(3)メタノールによる障害として顕著なものには、網膜の微細動脈瘤(りゅう)を伴う脳血管障害がある。
(4)二硫化炭素は、精神障害や意識障害を起こすことがある。
(5)N,N-ジメチルホルムアミドによる障害として顕著なものには、視力低下を伴う視神経障害がある。
(1)は誤り。有機溶剤の蒸気は、一般に空気より重いという特徴があります。
(2)は誤り。すべて脂溶性であり、脂肪の多い脳などに入りやすい特徴があります。
(3)は誤り。メタノールによる健康障害には、視力の低下、視野狭窄、失明などの視神経障害があります。
(4)は正しい。
(5)は誤り。N,N-ジメチルホルムアミドによる障害として、頭痛、めまい、肝機能障害、消化不良があります。
問14 電離放射線に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)電離放射線の被ばくによる生体への影響には、身体的影響と遺伝的影響がある。
(2)電離放射線の被ばくによる身体的影響のうち、白内障は晩発障害に分類される。
(3)電離放射線の被ばくによる発がんと遺伝的影響は、確定的影響に分類され、その発生には、しきい値があり、しきい値を超えると発生率及び症状の程度は線量に依存する。
(4)電離放射線に被ばく後、数週間程度までに現れる造血器系障害は、急性障害に分類される。
(5)造血器、消化管粘膜など細胞分裂の頻度の高い細胞が多い組織・臓器は、一般に、電離放射線の影響を受けやすい。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。電離放射線の被ばくによる発がんと遺伝的影響は、「確率的影響」に分類されます。また、その発生には、しきい値がありません。
問15 金属による中毒に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)鉛中毒では、貧血、伸筋麻痺(ひ)、腹部の疝(せん)痛などの症状がみられる。
(2)ベリリウム中毒では、溶血性貧血、尿の赤色化などの症状がみられる。
(3)マンガン中毒では、指の骨の溶解、皮膚の硬化などの症状がみられる。
(4)クロム中毒では、低分子蛋(たん)白尿、歯への黄色の色素沈着、視野狭窄(さく)などの症状がみられる。
(5)金属水銀中毒では、骨軟化症、鼻中隔穿(せん)孔などの症状がみられる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。ベリリウム中毒では、触性皮膚炎、肺炎、ベリリウム肺などの症状がみられます。
(3)は誤り。マンガン中毒では、筋のこわばり、震え、歩行困難などのパーキンソン病に似た神経症状などの症状がみられます。
(4)は誤り。クロム中毒では、鼻中隔穿孔、皮膚障害などの症状がみられます。
(5)は誤り。金属水銀中毒では、手指の震え、感情不安定、幻覚や錯乱などの精神障害などの症状がみられます。
問16 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)窒素ガスで置換したタンク内の空気など、ほとんど無酸素状態の空気を吸入すると徐々に窒息の状態になり、この状態が5分程度継続すると呼吸停止する。
(2)減圧症は、潜函(かん)作業者、潜水作業者などに発症するもので、高圧下作業からの急な減圧に伴い、血液中や組織中に溶け込んでいた窒素の気泡化が関与して発生し、皮膚のかゆみ、関節痛、神経の麻痺(ひ)などの症状がみられる。
(3)金属熱は、金属の溶融作業などで亜鉛、銅などの金属の酸化物のヒュームを吸入することにより発生し、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)低体温症は、低温下の作業で、全身が冷やされ体内温度が35℃程度以下に低下した状態をいい、意識消失、筋の硬直などの症状がみられる。
(5)振動障害は、チェーンソーなどの振動工具によって生じる障害で、手のしびれなどの末梢(しょう)神経障害やレイノー現象などの末梢循環障害がみられる。
(1)は誤り。酸素濃度が10%以下で意識消失や窒息、けいれんなどが生じ、6%以下では一呼吸(瞬時に)で失神し、呼吸が停止し、死亡することがあります。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)二酸化窒素による中毒では、末梢(しょう)神経障害などがみられる。
(2)シアン化水素による中毒では、細胞内での酸素利用の障害による呼吸困難、けいれんなどがみられる。
(3)硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺(ひ)などがみられる。
(4)二酸化硫黄による慢性中毒では、慢性気管支炎、歯牙酸蝕(しょく)症などがみられる。
(5)弗(ふっ)化水素による慢性中毒では、骨の硬化、斑状歯などがみられる。
(1)は誤り。二酸化窒素による中毒・障害では、歯牙酸蝕症、慢性気管支炎、胃腸障害、粘膜刺激症状、急性肺水腫などがみられます。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問18 局所排気装置に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ダクトの形状には円形、角形などがあるが、その断面積を大きくするほど、ダクトの圧力損失が増大する。
(2)フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、気流の整流作用が増すので、大きな排風量が必要となる。
(3)ドラフトチェンバ型フードは、発生源からの飛散速度を利用して捕捉するもので、外付け式フードに分類される。
(4)建築ブース型フードは、作業面を除き周りが覆われているもので、外付け式フードに分類される。
(5)ダクトは、曲がり部分をできるだけ少なくするように配管し、主ダクトと枝ダクトとの合流角度は45°を超えないようにする。
(1)は誤り。ダクトの断面積を小さくするほどダクトの圧力損失は増大します。
(2)は誤り。フード開口部の周囲にフランジを設けると、フランジがないときに比べ、吸引範囲は狭くなりますが、少ない排風量で所要の効果を上げることができます。
(3)は誤り。ドラフトチェンバ型フードは、作業面を除き周りが覆われている形のもので、開口部が大きく作業しやすいのが特徴で、囲い式フードに分類されます。
(4)は誤り。建築ブース型フードは、囲い式フードに分類されます。
(5)は正しい。
問19 呼吸用保護具に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)防じんマスクは作業に適したものを選択し、顔面とマスクの面体の高い密着性が要求される有害性の高い物質を取り扱う作業については、使い捨て式のものを選ぶ。
(2)防じんマスクの面体の接顔部に接顔メリヤスを使用すると、マスクと顔面との密着性が良くなる。
(3)2種類以上の有害ガスが混在している場合には、そのうち最も毒性の強いガス用の防毒マスクを使用する。
(4)吸収缶が、除毒能力を喪失するまでの時間を破過時間という。
(5)ハロゲンガス用防毒マスクの吸収缶の色は、黄色である。
(1)は誤り。防じんマスクは作業に適したものを選択し、顔面とマスクの面体の高い密着性が要求される有害性の高い物質を取り扱う作業については、取替え式のものを選びます。
(2)は誤り。呼吸用保護具の着用方法として、面体と顔面の間にタオル当てたり、面体接顔部に接顔メリヤスを使用すると、密着度が低くなるのでしてはなりません。
(3)は誤り。2種類以上の有害ガスが混在している場合では、そのうち最も毒性の強いガス用の防毒マスクを使用しても、その他の有害ガスにばく露されるため、適切な呼吸用保護具を使用しなければなりません。
(4)は正しい。
(5)は誤り。ハロゲンガス用防毒マスクの吸収缶の色は、灰/黒のツートンカラーです。
問20 特殊健康診断に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「特殊健康診断において有害物の体内摂取量を把握する検査として、生物学的モニタリングがあり、トルエンについては、尿中の[ A ]を測定し、[ B ]については、[ C ]中のデルタアミノレブリン酸を測定する。」
(1)A:馬尿酸 B:鉛 C:尿
(2)A:馬尿酸 B:鉛 C:血液
(3)A:マンデル酸 B:鉛 C:尿
(4)A:マンデル酸 B:水銀 C:尿
(5)A:マンデル酸 B:水銀 C:血液
答え(1)
「特殊健康診断において有害物の体内摂取量を把握する検査として、生物学的モニタリングがあり、トルエンについては、尿中の[馬尿酸]を測定し、[鉛]については、[尿]中のデルタアミノレブリン酸を測定する。」
▼「特殊健康診断」について法改正がありました。
例えば、特化則に規定されるスチレンの検査項目は、下記の通り改正されています。
【改正前】尿中のマンデル酸の量の測定
【改正後】尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定
施行日は令和2年7月1日です。
また、特化則以外にも、有機則、鉛則、四アルキル則についても改正されています。
各規則が制定されてから40年以上が経ち、健康障害に関する事情が変わってきたため、大幅に変更されました。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【参考】化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました(令和2年7月1日 施行)
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