衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2020年4月)
ここでは、2020年(令和2年)4月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、特例第1種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第2種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2020年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2020年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2020年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2020年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2020年4月)
問11 局所排気装置に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ダクトの形状には円形、角形などがあり、その断面積を大きくするほど、ダクトの圧力損失が増大する。
(2)フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、気流の整流作用が増すので、大きな排風量が必要となる。
(3)ドラフトチェンバ型フードは、発生源からの飛散速度を利用して捕捉するもので、外付け式フードに分類される。
(4)建築ブース型フードは、作業面を除き周りが覆われているもので、外付け式フードに分類される。
(5)ダクトは、曲がり部分をできるだけ少なくするように配管し、主ダクトと枝ダクトとの合流角度は45°を超えないようにする。
(1)は誤り。ダクトの断面積を「小さく」するほどダクトの圧力損失は増大します。
(2)は誤り。フード開口部の周囲にフランジを設けると、フランジがないときに比べ、吸引範囲は狭くなりますが、「少ない」排風量で所要の効果を上げることができます。
(3)は誤り。ドラフトチェンバ型フードは、作業面を除き周りが覆われている形のもので、開口部が大きく作業しやすいのが特徴で、「囲い式」フードに分類されます。
(4)は誤り。建築ブース型フードは、「囲い式」フードに分類されます。
(5)は正しい。
問12 次の化学物質のうち、常温・常圧(25℃、1気圧)の空気中で蒸気として存在するものはどれか。
ただし、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)塩素
(2)ジクロロベンジジン
(3)アンモニア
(4)クロム酸
(5)アセトン
(1)は誤り。塩素は、ガスとして存在します。
(2)は誤り。ジクロロベンジジンは、粉じんとして存在します。
(3)は誤り。アンモニアは、ガスとして存在します。
(4)は誤り。クロム酸は、粉じんとして存在します。
(5)は正しい。アセトンは、蒸気として存在します。
問13 化学物質と、それにより発症するおそれのある主たるがんとの組合せとして、正しいものは次のうちどれか。
(1)ベンゼン…………………………… 白血病
(2)ベンジジン………………………… 胃がん
(3)ベンゾトリクロリド……………… 膀胱(ぼうこう)がん
(4)コールタール……………………… 肝血管肉腫
(5)石綿………………………………… 皮膚がん
(1)は正しい。
(2)は誤り。ベンジジンは、膀胱がんを発症します。
(3)は誤り。ベンゾトリクロリドは、肺がんを発症します。
(4)は誤り。コールタールは、肺がん、皮膚がん、膀胱がんを発症します。
(5)は誤り。石綿は、肺がん、胸膜中皮腫を発症します。
問14 有機溶剤に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)有機溶剤は、水溶性と脂溶性を共に有し、その蒸気は空気より軽い。
(2)有機溶剤は、揮発性が高いため呼吸器から吸収されやすいが、皮膚から吸収されることはない。
(3)ノルマルヘキサンのばく露の生物学的モニタリングの指標としての尿中代謝物は、2,5-ヘキサンジオンである。
(4)メタノールによる健康障害として顕著なものは、網膜細動脈瘤(りゅう)を伴う脳血管障害である。
(5)二硫化炭素による中毒では、メトヘモグロビン形成によるチアノーゼがみられる。
(1)は誤り。アセトンなどは、水溶性と脂溶性をともに有する両親媒性であり、こういったものは皮膚や粘膜から吸収されやすいことで知られています。有機溶剤の蒸気は、一般に空気より重いという特徴があります。
(2)は誤り。有機溶剤は、揮発性が高いため呼吸器から人体に吸収されることが多いですが、皮膚から吸収されるものもあります。
(3)は正しい。
(4)は誤り。メタノールによる健康障害には、視力の低下、視野狭窄(さく)、失明などの視神経障害があります。
(5)は誤り。二硫化炭素による中毒では、網膜細動脈瘤(りゅう)を伴う脳血管障害のほか、精神異常や意識障害などの精神障害がみられます。
問15 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)リスクアセスメントの基本的手順のうち最初に実施するのは、労働者の就業に係る化学物質等による危険性又は有害性を特定することである。
(2)ハザードは、労働災害発生の可能性と負傷又は疾病の重大性(重篤度)の組合せであると定義される。
(3)化学物質等による疾病のリスク低減措置の検討では、化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用よりも局所排気装置の設置等の衛生工学的対策を優先する。
(4)化学物質等による疾病のリスク低減措置の検討では、法令に定められた事項を除けば、危険性又は有害性のより低い物質への代替等を最優先する。
(5)新たに化学物質等の譲渡又は提供を受ける場合には、その化学物質等を譲渡し、又は提供する者から、その化学物質等のSDS(安全データシート)を入手する。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。ハザードは、「危険性」または「有害性」と定義されます。
問16 じん肺に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)じん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた炎症性病変を主体とする疾病で、けい肺、間質性肺炎などがある。
(2)けい肺は、遊離けい酸の粉じんを吸入することにより起こるじん肺であり、その自覚症状は、進行してから、咳(せき)や痰(たん)が始まり、やがて呼吸困難に陥る。
(3)じん肺は、続発性気管支炎、肺結核などを合併することがある。
(4)アルミニウムやその化合物によるじん肺をアルミニウム肺という。
(5)じん肺がある程度進行すると、粉じんへのばく露を中止しても肺の病変が進行する。
(1)は誤り。じん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた「線維増殖性変化」を主体とする疾病です。じん肺には、けい肺や石綿肺などがあります。なお、間質性肺炎は、肺胞にある間質が炎症を起こし線維化することによって発症する肺炎です。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問17 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)窒素ガスで置換したタンク内の空気など、ほとんど無酸素状態の空気を吸入すると徐々に窒息の状態になり、この状態が5分程度継続すると呼吸停止する。
(2)騒音性難聴は、騒音にばく露され続けた結果、内耳の有毛細胞が変性し、永久的に聴力が障害を受けるもので、初期には4kHz付近の聴力が低下する。
(3)金属熱は、金属の溶融作業などで亜鉛、銅などの金属の酸化物のヒュームを吸入したときに発生し、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)低体温症は、低温下の作業で全身が冷やされ、体の中心部の温度が35℃程度以下に低下した状態をいい、意識消失、筋の硬直などの症状がみられる。
(5)振動障害は、チェーンソー、削岩機などの振動工具によって生じる障害で、手のしびれなどの末梢神経障害やレイノー現象などの末梢(しょう)循環障害がみられる。
(1)は誤り。酸素濃度が10%以下で意識消失や窒息、けいれんなどが生じ、6%以下では一呼吸(瞬時に)で失神し、呼吸が停止し、死亡することがあります。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問18 厚生労働省の「作業環境測定基準」及び「作業環境評価基準」に基づく作業環境測定及びその結果の評価に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)管理濃度は、有害物質に関する作業環境の状態を単位作業場所の作業環境測定結果から評価するための指標として設定されたものである。
(2)A測定は、原材料を反応槽へ投入する場合など、間欠的に大量の有害物質の発散を伴う作業における最高濃度を知るために行う測定である。
(3)B測定は、単位作業場所における気中有害物質濃度の平均的な分布を知るために行う測定である。
(4)A測定の第二評価値及びB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない単位作業場所は、第一管理区分になる。
(5)B測定の測定値が管理濃度を超えている単位作業場所の管理区分は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。A測定は、単位作業場所全体における有害物質の気中濃度の「平均的」な分布を知るために行う測定です。
(3)は誤り。B測定は、単位作業場所中の有害物質の発散源に近接する場所で作業が行われる場合、有害物質の気中濃度の「最高濃度」を知るために行う測定です。
(4)は誤り。A測定の「第一評価値」およびB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない場合は、第一管理区分となります。
(5)は誤り。B測定の測定値が管理濃度の「1.5倍」を超えている場合は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となります。
問19 特殊健康診断に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「特殊健康診断において、有害物の体内摂取量を把握する検査として生物学的モニタリングがあり、トルエンについては尿中の[ A ]を測定し、[ B ]については[ C ]中のデルタアミノレブリン酸を測定する。」
(1)A:馬尿酸 B:鉛 C:尿
(2)A:馬尿酸 B:鉛 C:血液
(3)A:マンデル酸 B:鉛 C:尿
(4)A:マンデル酸 B:水銀 C:尿
(5)A:マンデル酸 B:水銀 C:血液
答え(1)
「特殊健康診断において、有害物の体内摂取量を把握する検査として生物学的モニタリングがあり、トルエンについては尿中の[馬尿酸]を測定し、[鉛]については[尿]中のデルタアミノレブリン酸を測定する。」
▼「特殊健康診断」について法改正がありました。
例えば、特化則に規定されるスチレンの検査項目は、下記の通り改正されています。
【改正前】尿中のマンデル酸の量の測定
【改正後】尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定
施行日は令和2年7月1日です。
また、特化則以外にも、有機則、鉛則、四アルキル則についても改正されています。
各規則が制定されてから40年以上が経ち、健康障害に関する事情が変わってきたため、大幅に変更されました。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【参考】化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました(令和2年7月1日 施行)
問20 労働衛生保護具に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)ガス又は蒸気状の有害物質が粉じんと混在している作業環境中で防毒マスクを使用するときは、防じん機能を有する防毒マスクを選択する。
(2)防毒マスクの吸収缶の色は、一酸化炭素用は赤色で、有機ガス用は黒色である。
(3)送気マスクは、清浄な空気をボンベに詰めたものを空気源として作業者に供給する自給式呼吸器である。
(4)遮光保護具には、遮光度番号が定められており、溶接作業などの作業の種類に応じて適切な遮光度番号のものを使用する。
(5)騒音作業における防音保護具として、耳覆い(イヤーマフ)又は耳栓のどちらを選ぶかは、作業の性質や騒音の特性で決まるが、非常に強烈な騒音に対しては両者の併用も有効である。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。送気マスクは、給気源からパイプ、ホースなどを通して清浄な空気を供給する方式の保護具です。
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