衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2020年10月)
ここでは、2020年(令和2年)10月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、特例第1種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第2種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2020年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2020年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2020年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2020年10月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2020年10月)
問11 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」において示されている化学物質等による疾病に係るリスクを見積もる方法として、適切でないものは次のうちどれか。
(1)発生可能性及び重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸として、あらかじめ発生可能性及び重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用する方法
(2)発生可能性及び重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等する方法
(3)発生可能性及び重篤度を段階的に分岐していく方法
(4)対象の化学物質等への労働者のばく露の程度及び当該化学物質等による有害性を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめばく露の程度及び有害性の程度に応じてリスクが割り付けられた表を使用する方法
(5)調査の対象とした化学物質等への労働者の個人ばく露濃度を測定し、測定結果を厚生労働省の「作業環境評価基準」に示されている当該化学物質の管理濃度と比較する方法
(1)(2)(3)(4)は適切。
(5)は不適切。このような方法は規定されていません。
選択肢とよく似た方法として、対象の業務について作業環境測定等により測定した作業場所における化学物質等の気中濃度等を、当該化学物質等のばく露限界(日本産業衛生学会が定めた許容濃度)と比較する方法があります。
問12 厚生労働省の「作業環境測定基準」及び「作業環境評価基準」に基づく作業環境測定及びその結果の評価に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)管理濃度は、有害物質に関する作業環境の状態を単位作業場所の作業環境測定結果から評価するための指標として設定されたものである。
(2)A測定は、原材料を反応槽へ投入する場合など、間欠的に大量の有害物質の発散を伴う作業における最高濃度を知るために行う測定である。
(3)B測定は、単位作業場所における気中有害物質濃度の平均的な分布を知るために行う測定である。
(4)A測定の第二評価値及びB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない単位作業場所は、第一管理区分となる。
(5)B測定の測定値が管理濃度を超えている単位作業場所の管理区分は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。A測定は、単位作業場所全体における有害物質の気中濃度の平均的な分布を知るために行う測定です。
(3)は誤り。B測定は、単位作業場所中の有害物質の発散源に近接する場所で作業が行われる場合、有害物質の気中濃度の最高濃度を知るために行う測定です。
(4)は誤り。A測定の第一評価値およびB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない場合は、第一管理区分となります。
(5)は誤り。B測定の測定値が管理濃度の1.5倍を超えている場合は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となります。
問13 化学物質とその常温・常圧(25℃、1気圧)の空気中における状態との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
ただし、「ガス」とは、常温・常圧で気体のものをいい、「蒸気」とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)ホルムアルデヒド …… ガス
(2)塩化ビニル …………… ガス
(3)二硫化炭素 …………… 蒸気
(4)二酸化硫黄 …………… 蒸気
(5)アクリロニトリル …… 蒸気
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。二酸化硫黄はガスとして存在します。
問14 粉じんによる健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)じん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病である。
(2)じん肺の自覚症状は、初期にはあまりみられないが、進行すると咳(せき)、痰(たん)、呼吸困難などがみられる。
(3)じん肺の合併症には、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがある。
(4)石綿粉じんは、肺がん、胸膜中皮腫などの重篤な疾病を起こすおそれがある。
(5)米杉、ラワンなどの木材粉じんは、ぜんそくを起こすことがある。
答え(3)
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。「じん肺法施行規則」では、じん肺の合併症として次の疾病が定められています。
・肺結核
・結核性胸膜炎
・続発性気管支炎
・続発性気管支拡張症
・続発性気胸
・原発性肺がん
また、間質性肺炎とは、薬剤や異物の吸入によって、肺胞の壁に炎症が起こり、その壁が厚く硬く線維化し、ガス交換がうまくできなくなる病気です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺胞どうしがくっ付いてしまい息切れ等が起こる肺気腫や咳と痰等を伴う慢性気管支炎のことをいい、長期間の喫煙によって発症することが多いです。なお、COPDは、英語病名のChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの頭文字を取ったものです。
問15 有害化学物質とその生物学的モニタリング指標として用いられる尿中の代謝物等との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
(1)鉛 ……………………… デルタ-アミノレブリン酸
(2)スチレン ……………… 馬尿酸
(3)キシレン ……………… メチル馬尿酸
(4)ノルマルヘキサン …… 2,5-ヘキサンジオン
(5)トリクロロエチレン … トリクロロ酢酸
答え(2)
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。スチレンの健診項目として、尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定があります。
また、馬尿酸の測定は、トルエンの健診項目です。
▼「特殊健康診断」について法改正がありました。
例えば、特化則に規定されるスチレンの検査項目は、下記の通り改正されています。
【改正前】尿中のマンデル酸の量の測定
【改正後】尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定
施行日は令和2年7月1日です。
また、特化則以外にも、有機則、鉛則、四アルキル則についても改正されています。
各規則が制定されてから40年以上が経ち、健康障害に関する事情が変わってきたため、大幅に変更されました。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【参考】化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました(令和2年7月1日 施行)
問16 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)窒素ガスで置換したタンク内の空気など、ほとんど無酸素状態の空気を吸入すると徐々に窒息の状態になり、この状態が5分程度継続すると呼吸停止する。
(2)減圧症は、潜函(かん)作業者、潜水作業者などに発症するもので、高圧下作業からの減圧に伴い、血液中や組織中に溶け込んでいた窒素の気泡化が関与して発生し、皮膚のかゆみ、関節痛、神経の麻痺(ひ)などの症状がみられる。
(3)金属熱は、金属の溶融作業などで亜鉛、銅などの金属の酸化物のヒュームを吸入することにより発生し、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)電離放射線による中枢神経系障害は、確定的影響に分類され、被ばく線量がしきい値を超えると重篤度が線量の増加に応じて増加する。
(5)振動障害は、チェーンソー、削岩機などの振動工具によって生じる障害で、手のしびれなどの末梢(しょう)神経障害やレイノー現象などの末梢循環障害がみられる。
(1)は誤り。酸素濃度が10%以下で意識消失や窒息、けいれんなどが生じ、6%以下では一呼吸(瞬時に)で失神し、呼吸が停止し、死亡することがあります。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺(ひ)などがみられる。
(2)ノルマルヘキサンによる健康障害では、末梢(しょう)神経障害などがみられる。
(3)N,N-ジメチルホルムアミドによる健康障害では、頭痛、肝機能障害などがみられる。
(4)弗(ふっ)化水素による健康障害では、貧血、溶血、メトヘモグロビン形成によるチアノーゼなどがみられる。
(5)ベンゼンによる健康障害では、再生不良性貧血、白血病などがみられる。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。弗化水素による中毒・障害では、骨の硬化、斑状歯、歯牙酸蝕症、肺炎、肺水腫、腎障害などがみられます。
問18 有機溶剤の人体に対する影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)脂溶性があり、脂肪の多い脳などに入りやすい。
(2)高濃度ばく露による急性中毒では、中枢神経系抑制作用により酩酊(めいてい)状態をきたし、重篤な場合は死に至る。
(3)低濃度の繰り返しばく露による慢性中毒では、頭痛、めまい、記憶力減退、不眠などの不定愁訴がみられる。
(4)皮膚や粘膜に対する症状には、黒皮症、鼻中隔穿(せん)孔などがある。
(5)一部の有機溶剤は、肝機能障害や腎機能障害を起こす。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。皮膚や粘膜の症状として、湿疹、皮膚の角化、亀裂、結膜炎などがみられます。
問19 局所排気装置に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ダクトの形状には円形、角形などがあるが、その断面積を大きくするほど、ダクトの圧力損失が増大する。
(2)フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、気流の整流作用が増し、大きな排風量が必要となる。
(3)ドラフトチェンバ型フードは、発生源からの飛散速度を利用して捕捉するもので、外付け式フードに分類される。
(4)建築ブース型フードは、作業面を除き周りが覆われているもので、囲い式フードに分類される。
(5)ダクトは、曲がり部分をできるだけ少なくするように配管し、主ダクトと枝ダクトとの合流角度は60°を超えないようにする。
(1)は誤り。ダクトの断面積を小さくするほど、ダクトの圧力損失が増大します。反対に、ダクトの断面積が大きすぎると搬送速度が不足します。
(2)は誤り。フード開口部の周囲にフランジがあると、フランジがないときに比べ、少ない排風量で所要の効果を上げることができます。
(3)は誤り。ドラフトチェンバ型フードは、作業面を除き周りが覆われている形のもので、開口部が大きく作業しやすいのが特徴で、囲い式フードに分類されます。
(4)は正しい。
(5)は誤り。ダクトは、曲がり部分をできるだけ少なくするように配管し、主ダクトと枝ダクトとの合流角度は45°を超えないようにします。
問20 金属による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)カドミウム中毒では、上気道炎、肺炎、腎機能障害などがみられる。
(2)鉛中毒では、貧血、末梢(しょう)神経障害、腹部の疝(せん)痛などがみられる。
(3)マンガン中毒では、筋のこわばり、ふるえ、歩行困難などのパーキンソン病に似た症状がみられる。
(4)ベリリウム中毒では、溶血性貧血、尿の赤色化などの症状がみられる。
(5)クロム中毒では、肺がん、上気道がんなどがみられる。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。ベリリウム中毒では、触性皮膚炎、肺炎、ベリリウム肺などの症状がみられます。
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