衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2022年4月)
ここでは、2022年(令和4年)4月公表の過去問のうち「労働生理」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、第2種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、特例第1種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2022年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2022年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2022年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2022年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2022年4月)
問21 呼吸に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)呼吸運動は、横隔膜、肋(ろっ)間筋などの呼吸筋が収縮と弛(し)緩をすることにより行われる。
(2)胸郭内容積が増し、その内圧が低くなるにつれ、鼻腔(くう)、気管などの気道を経て肺内へ流れ込む空気が吸気である。
(3)肺胞内の空気と肺胞を取り巻く毛細血管中の血液との間で行われるガス交換を外呼吸という。
(4)呼吸数は、通常、1分間に16~20回で、成人の安静時の1回呼吸量は、約500mLである。
(5)呼吸のリズムをコントロールしているのは、間脳の視床下部である。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。呼吸のリズムをコントロールしているのは、延髄であり、間脳の視床下部ではありません。視床下部は体温調節やホルモン分泌などを担当します。
問22 心臓及び血液循環に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)大動脈及び肺動脈を流れる血液は、酸素に富む動脈血である。
(2)体循環では、血液は左心室から大動脈に入り、静脈血となって右心房に戻ってくる。
(3)心筋は人間の意思によって動かすことができない不随意筋であるが、随意筋である骨格筋と同じ横紋筋に分類される。
(4)心臓の中にある洞結節(洞房結節)で発生した刺激が、刺激伝導系を介して心筋に伝わることにより、心臓は規則正しく収縮と拡張を繰り返す。
(5)動脈硬化とは、コレステロールの蓄積などにより、動脈壁が肥厚・硬化して弾力性を失った状態であり、進行すると血管の狭窄(さく)や閉塞を招き、臓器への酸素や栄養分の供給が妨げられる。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
(1)は誤り。大動脈を流れる血液は酸素に富む動脈血ですが、肺動脈を流れる血液は酸素に乏しい静脈血です。肺動脈は、心臓から肺に向かう静脈血を運ぶ血管です。
問23 体温調節に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)寒冷な環境においては、皮膚の血管が収縮して血流量が減って、熱の放散が減少する。
(2)暑熱な環境においては、内臓の血流量が増加し体内の代謝活動が亢(こう)進することにより、人体からの熱の放散が促進される。
(3)体温調節にみられるように、外部環境などが変化しても身体内部の状態を一定に保とうとする性質を恒常性(ホメオスタシス)という。
(4)計算上、100gの水分が体重70kgの人の体表面から蒸発すると、気化熱が奪われ、体温が約1℃下がる。
(5)熱の放散は、ふく射(放射)、伝導、蒸発などの物理的な過程で行われ、蒸発には、発汗と不感蒸泄(せつ)によるものがある。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。暑熱な環境では、皮膚の血流量が増加して熱が放散されます。内臓の血流量が増加するわけではありません。
問24 肝臓の機能として、誤っているものは次のうちどれか。
(1)血液中の身体に有害な物質を分解する。
(2)ブドウ糖をグリコーゲンに変えて蓄える。
(3)ビリルビンを分解する。
(4)血液凝固物質を合成する。
(5)血液凝固阻止物質を合成する。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。肝臓はビリルビンを分解するのではなく、ビリルビンを代謝・排出する役割を担います。ビリルビンの生成は主に脾臓で行われ、肝臓で処理されます。
問25 次のうち、正常値に男女による差がないとされているものはどれか。
(1)赤血球数
(2)ヘモグロビン濃度
(3)ヘマトクリット値
(4)白血球数
(5)基礎代謝量
(1)(2)(3)(5)は、男女による差が見られます。
(4)白血球数は男女差がないとされています。
問26 蛋(たん)白質並びにその分解、吸収及び代謝に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)蛋(たん)白質は、約20種類のアミノ酸が結合してできており、内臓、筋肉、皮膚など人体の臓器等を構成する主成分である。
(2)蛋(たん)白質は、膵(すい)臓から分泌される消化酵素である膵(すい)リパーゼなどによりアミノ酸に分解され、小腸から吸収される。
(3)血液循環に入ったアミノ酸は、体内の各組織において蛋(たん)白質に再合成される。
(4)肝臓では、アミノ酸から血漿(しょう)蛋(たん)白質が合成される。
(5)飢餓時には、肝臓などでアミノ酸などからブドウ糖を生成する糖新生が行われる。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。蛋白質は、膵リパーゼではなく、膵トリプシンなどの消化酵素によりアミノ酸に分解されます。膵リパーゼは脂肪を分解する酵素です。
問27 視覚に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)眼は、周りの明るさによって瞳孔の大きさが変化して眼に入る光量が調節され、暗い場合には瞳孔が広がる。
(2)眼軸が短すぎることなどにより、平行光線が網膜の後方で像を結ぶものを遠視という。
(3)角膜が歪(ゆが)んでいたり、表面に凹凸があるために、眼軸などに異常がなくても、物体の像が網膜上に正しく結ばれないものを乱視という。
(4)網膜には、明るい所で働き色を感じる錐(すい)状体と、暗い所で働き弱い光を感じる杆(かん)状体の2種類の視細胞がある。
(5)明るいところから急に暗いところに入ると、初めは見えにくいが徐々に見えやすくなることを明順応という。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。明るいところから暗いところに入る際に、徐々に見えやすくなるのは暗順応です。明順応はその逆で、暗いところから明るいところに入った際に視覚が適応する現象を指します。
問28 ヒトのホルモン、その内分泌器官及びそのはたらきの組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
A:ホルモン B:内分泌器官 C:はたらき
(1)A:コルチゾール B:副腎皮質 C:血糖量の増加
(2)A:アルドステロン B:副腎皮質 C:体液中の塩類バランスの調節
(3)A:メラトニン B:副甲状腺 C:体液中のカルシウムバランスの調節
(4)A:インスリン B:膵(すい)臓 C:血糖量の減少
(5)A:アドレナリン B:副腎髄質 C:血糖量の増加
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。メラトニンは、副甲状腺ではなく、松果体から分泌されます。副甲状腺から分泌されるパラソルモンは、体液中のカルシウムバランスの調節を担当します。
問29 代謝に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)代謝において、細胞に取り入れられた体脂肪、グリコーゲンなどが分解されてエネルギーを発生する過程を同化という。
(2)代謝において、体内に摂取された栄養素が、種々の化学反応によって、細胞を構成する蛋(たん)白質などの生体に必要な物質に合成されることを異化という。
(3)基礎代謝量は、安静時における心臓の拍動、呼吸、体温保持などに必要な代謝量で、睡眠中の測定値で表される。
(4)エネルギー代謝率は、一定時間中に体内で消費された酸素と排出された二酸化炭素の容積比である。
(5)エネルギー代謝率は、動的筋作業の強度を表すことができるが、静的筋作業には適用できない。
答え(5)
(1)は誤り。同化とは、体内に取り入れた栄養素(アミノ酸や糖質など)を使って、体内で必要な物質(蛋白質やグリコーゲンなど)を合成する過程を指します。
これは、エネルギーを使って行われる反応です。
一方、細胞内に蓄えられた体脂肪やグリコーゲンなどが分解されてエネルギーを発生させる過程は異化です。
異化は、複雑な分子を分解してエネルギーを生成する反応を指します。
(2)は誤り。体内に摂取された栄養素が蛋白質などの必要な物質に合成されるのは、同化の過程です。
同化は、エネルギーを使って新しい物質を作り出すことです。
異化とは、逆に、複雑な分子(グリコーゲン、脂肪、蛋白質など)が分解され、エネルギーを放出する過程を指します。
したがって、この選択肢は同化と異化の意味を取り違えています。
(3)は誤り。基礎代謝量は、心臓の拍動や呼吸、体温維持など、生命維持に必要な最低限のエネルギー消費量を指しますが、これは起きている安静時に測定されるものです。
睡眠中ではなく、通常は目覚めた状態で、心身ともに安静にしている状態で基礎代謝量が測定されます。
睡眠中は代謝がさらに低下しますが、それは基礎代謝とは異なります。
(4)は誤り。エネルギー代謝率とは、運動や活動時に消費されるエネルギーを基礎代謝量に対する割合で表すものです。
たとえば、激しい運動をしている時のエネルギー消費が基礎代謝の3倍であれば、エネルギー代謝率は3となります。
この選択肢で述べているのは、呼吸商(RQ:Respiratory Quotient)です。
呼吸商は、酸素消費量に対する二酸化炭素排出量の比率で、代謝されている栄養素(脂質、糖質、蛋白質)を推定するために使用されます。
(5)は正しい。エネルギー代謝率は、運動や作業中のエネルギー消費を測定する際に使用され、特に動的筋作業(運動を伴う作業)の強度を評価するのに適しています。
たとえば、ランニングや重い物を運ぶなどの作業では、エネルギー消費が大きく変わるため、エネルギー代謝率を使って強度を測ることができます。
一方、静的筋作業(姿勢を保持する作業など)では、筋肉が動かずエネルギー消費が少ないため、エネルギー代謝率はあまり適用できません。
エネルギー消費量の変化が小さいため、正確な評価が難しくなります。
問30 腎臓・泌尿器系に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)腎臓の皮質にある腎小体では、糸球体から蛋(たん)白質以外の血漿(しょう)成分がボウマン嚢(のう)に濾(こ)し出され、原尿が生成される。
(2)腎臓の尿細管では、原尿に含まれる大部分の水分及び身体に必要な成分が血液中に再吸収され、残りが尿として生成される。
(3)尿は淡黄色の液体で、固有の臭気を有し、通常、弱酸性である。
(4)尿の生成・排出により、体内の水分の量やナトリウムなどの電解質の濃度を調節するとともに、生命活動によって生じた不要な物質を排出する。
(5)血液中の尿素窒素(BUN)の値が低くなる場合は、腎臓の機能の低下が考えられる。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。血液中の尿素窒素(BUN)の値が高くなる場合、腎機能の低下が疑われます。また、BUN値が低い場合は栄養状態や肝機能の問題が考えられます。
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